いつもなら,いかにも上機嫌そうに決算発表で熱弁をふるう孫正義氏。しかし今回は一転,終始落ち着いた表情をみせていた。それは,「(ボーダフォンという)沈みゆく船を買った」と言われながら参入に踏み切った携帯電話事業が,周囲の予想を超えて好調だったことへの自信の表れだろうか。
ソフトバンクは,2006年度(2006年4月~2007年3月)の連結決算を発表した。ボーダフォンを買収したことで,売上高は前年同期比130%増となる2兆5442億円,営業利益は同335%増になる2710億円に伸長した。
「番号ポータビリティの導入で3割のユーザーが離れる,とマスコミもアナリストも言っていた。結果は,純増数が前年の4倍,85万件にも伸びた」(ソフトバンク 代表取締役 社長の孫正義氏)。
孫氏は決算発表で,純増数4倍,CM好感度1位といったいくつかの指標を挙げ,携帯電話事業が好調であることを強調した(下の写真参照)。実際,携帯電話事業を担うソフトバンクモバイルの営業利益は1346億円,前年度のボーダフォンの営業利益と比べても,約1.8倍に伸ばした。
ただし,今回営業利益が大きく伸びた理由の一つに,割賦方式の導入という特殊要因があることには注意が必要だ。端末の代金を割賦方式で月々請求することにより,端末の値引きの原資となる販売奨励金の平均値を,1契約当たり2万9000円と他社の3/4に抑えることができた。半面,今後の利益に貢献するARPU(1契約当たりの月間平均収入)が割賦支払いにより減少するので,長期的には減益の要因になり得る。営業利益を伸ばすには,3G比率を増やす,魅力的なオプション・サービスを増やすなど,ARPUを高める施策が必要になりそうだ。
「フェムトセル」は2007年内のサービス開始を目指す
ソフトバンクは,携帯電話事業の収益基盤の強化やサービス向上のため,二つの施策に取り組むことを明らかにした。
一つは,共通プラットフォームを採用して,端末の調達費を抑えること(Tech-On!関連記事)。同社は2007年5月22日,夏商戦向け新機種の発表に合わせ,新プラットフォームの概要を公表する予定である。
もう一つは,家庭単位や部屋単位で超小型の基地局(アクセス・ポイント)を設置する,いわゆるフェムトセルの導入である。これにより,家の中からの音声通話を定額または無料にするなど,FMC(固定と携帯の融合)サービスと同等のサービスを実現できる。「2007年5月までに公開実験を行い,2007年内にはサービス開始にこぎつけたい」(ソフトバンクモバイル 専務執行役の宮川潤一氏)。既にフェムトセルの基地局や実験用端末は試作済みという。
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