修了試験の当日,私は試験官に指示を出してわざと退出させ,隣の建物から様子をうかがうことにしました。すると,多くの作業員がカンニングをし始めました。カンニングペーパーを出す者もいれば,隣や前後で答案を交換する者もいます。

 そして,しばらくするとみんな真剣に答案用紙に向かうようになりました。設問のほとんどが作業員に対して実施した教育に対する感想文で,質問形式の設問は少なかったからです。

 その日の夜,私は回収した修了試験の答案用紙を採点していました。すると,一人の作業員の答案に目が止まりました。その作業員の名前は劉さん(仮名,女性)です。カンニング行為があるとはいえ,ほとんどの作業員が答案用紙をしっかりと埋めているのに対し,劉さんはただ一人,白紙の答案用紙を提出したのです。不思議に思い,翌朝,私は劉さんを呼んで面接することにしました。

「劉さん,昨日の修了試験の件ですけれど,あなたは何か試験に対して言いたいことがあるのですか?」

 私がそう問うと,彼女の目は真っ赤になり,大粒の涙があふれ出しました。

「実は,私の実家は貧しく,学校に行っていないのです」

 そう言うと,その後は込み上げてくるもので言葉になりません。その後,時間をかけて次第に分かってきた彼女が置かれた状況は,非常にかわいそうなものでした。

 なんと,彼女の年齢はまだ15歳。家が貧しくて学校に通えず,幼い弟や妹たちがいる家族の生活を支えるために,地方から親戚を頼ってこの工場に出稼ぎにやって来たというのです。しかし,15歳という年齢では入社条件を満たさないため,親戚の友達から身分証明書と中学校の卒業証書を借り,その上,会社の内通者にいくらか裏金を渡して入社させてもらったということでした。

 そのときの修了試験も当初の目的を達し,従業員の配属先の選定はうまくいきました。しかし,劉さんの違法就労という現実は払拭できません。私は劉さんの処遇を社長に一任しました。残念ながら,その後,劉さんは退社扱いになりました。その若さで働かなければならない境遇を知り,何とかしてあげられないかという思いもよぎったのですが,違法は違法。特別扱いはできません。劉さんが抱える事情について報告を受けた社長も,苦渋の決断を下したのです。

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