総務省の諮問機関である情報通信審議会が開催する「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の第14回会合が,2007年4月18日に開催された。この中で,懸案になっていた地上デジタル放送のコピーワンス問題について,検討委員会の主査を務める慶応大学教授の村井純氏は「デジタル放送チューナーとHDD録画機一体型の端末コピーワンスの番組を受信した場合に,回数限定で1世代のみコピー可」とする方針が示された。

 今回の方針は,2007年7月に予定される情報通信審議会に対する報告のとりまとめに向けて示されたものである。コピーワンスの番組を受信した時の受信機の動作の改善策として提案された。提案内容は大きく3点ある。(1)デジタル放送チューナーとHDDが一体になった受信機でCOG(コピー・ワン・ジェネレーション)の番組を受信したときに,COGのステータスでHDDに番組を記録する,(2)同一筐体内でメディアに記録する場合や,DTCPで保護された形で外部の機器に出力する場合は,その回数に一定の制限を設ける,(3)現行機器を対象にするのではなく,一定期間後に新たな機能として実現する,の3点である。この新しい仕組みを実現するために必要な技術的な検討を進めるために,関係者を集めたワーキング・グループを設置することも提案した。自ら主査を務めるとともに,5月末か,遅くとも6月にはこの検討委員会に報告するという期限を設ける。

 村井氏は,今回の提案をするに当たり,これまでの議論で大きく三つの点でコンセンサスを得たことを確認した。一つは,「コンテンツへのリスペクト(尊重)」である。例えば「次代の担う人たちがコンテンツを創る仕事を選ぶような環境作りが大切であり,コンテンツを保護することは重要なこと」という点では意見が一致していると指摘した。第2は,「私的利用については,コンテンツ側も反対していない」という点である。関連してポータブル・プレーヤーの発展など楽しみ方の拡大するテクノロジーはどんどん発展しており,その可能性を閉ざしたり否定したりする関係者はいなかったという。第3点は,「アナログ放送からデジタル放送への移行に向けて,視聴者の理解が大切」という点である。今回の提案は,この3点を踏まえた上でのものだ,と説明した。

コピー回数,コンテンツ側からは1回/3回を提案

 引き続き行われた質疑応答では,村井氏の提案をベースに,回数に関する質疑が活発に行われた。例えば,消費者団体の関係者(主婦連合会の河村真紀子氏)は,「コピーの数イコール回数という議論であるならば反対」という意見を表明した。「失敗もある,試しにコピーすることもある。必ずしも,コピーの枚数とコピーの回数は一致しない」というのが理由である。「私的利用を目的とする一般ユーザーはそもそもコピーのボタンを何回押すか,などに踏み込んでもらいたくない。十分な回数であることを強く望んでいる」と強調した。

 これに対して,実演家の関係者からは,「コピーの回数は3回とする」という提案があった。HDDの中のコンテンツは,ムーブが可能なものとして扱う。つまり,ファイルの数としては,最大4個とするという提案である。さらに,ムーブについては,「ファイル転送が終了してから元のファイルを消去する」といったファイル転送が担保された形にするように要請した。

 映画関係者は,「映画業界としては,本来はコピーを一切認めていない。テレビ放送については例外的にタイムシフト用に認めている。本来,HDDに記録すれば,タイムシフトの用途であればHDDで十分なのでは,とも考える。ただし,これまでの議論を尊重して,1回の複製は認めるということで,譲歩したい」と主張した。さらに,「番組ジャンル別に回数を変えられないものなのか。例えば,劇場用の映画やドラマは1回,その他は複数回とするなど可能ならば検討してもらいたい」と要請した。これについては,会議の出席者の中から,「コンテンツ利用記述子を利用するなどすれば可能性はある」という見方が示され,放送局設備や受信機の負担なども含めて,ワーキング・グループで検討課題になる可能性もありそうだ。

 NHKや民放などの放送関係者や機器メーカーからは,今回のコピーワンスに関連する提案を尊重する旨の意見が表明された。


関連記事:地デジのコピー制御方式見直し,「回数制限で1世代のみコピーか」へ」(日経エレクトロニクス2007年4月9日号の掲載記事)