図1 点灯した様子
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図2 サファイアとGaNの比較
図2 サファイアとGaNの比較
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図3 フリップチップ実装の様子
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図4 開発品の電極構造
図4 開発品の電極構造
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図5 蛍光体材料を含んだ樹脂の塗布した様子。放射角が変化しても色度の変化は少ない。
図5 蛍光体材料を含んだ樹脂の塗布した様子。放射角が変化しても色度の変化は少ない。
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 松下電器産業は,GaN基板上に作製した青色発光ダイオード(LED)チップを利用した白色LEDを,他社に先駆けて製品化した(Tech-On!関連記事)(図1)。GaN基板を用いればLEDなどの発光素子の発光効率といった特性が向上することは知られていたものの,GaN基板の価格が非常に高いことが実用化への障壁となっていた。例えば直径2インチのGaN基板は数十万円するものもある。そのため一般的な白色LEDは,価格の安さからサファイア基板を用いた青色LEDチップと蛍光材料を組み合せた白色LEDが多い。

 今回,松下電器産業 半導体社 ディスクリートビジネスユニット長 兼 パナソニック半導体オプトデバイス 代表取締役社長の石黒永孝氏,パナソニック半導体オプトデバイス 取締役 営業担当の後藤博文氏,同社営業グループ 海外チーム 参事の中里浩之氏,同社 開発グループ 第2開発チーム チームリーダーの前田俊秀氏,同社 開発グループ 第1開発チーム チームリーダーの亀井英徳氏らにGaN基板を採用した理由や今回の白色LEDの特徴などについて話を聞いた。(聞き手=根津禎)

――なぜGaN基板を採用したのか。

パナソニック半導体オプトデバイス 携帯電話機やデジタル・カメラのストロボ,照明機器,自動車のヘッド・ランプなどの高出力が求められるLED市場が伸びると考えている。こうした用途では,GaN基板の特性が生きると判断したため,今回の製品化に踏み切った。GaN基板はサファイア基板に比べて,導電率や熱伝導率が高い,屈折率が発光層のInGaN層と同程度,基板に積層するGaN系結晶との格子定数が近い,といった利点が生かせる(図2)。

――具体的にはGaN基板の特徴がどう生きているのか。

パナソニック半導体オプトデバイス 光の出射側に相当するGaN基板の屈折率が発光層のInGaN層に非常に近いため,サファイア基板品に比べて光の取り出し効率を高めることができた。今回の白色LEDでは青色LEDチップをフリップチップ実装している(図3)。フリップチップ実装を使うと光の取り出し効率を高められるが,まだ無駄になっている光がある。サファイアの屈折率は約1.8で,GaNの屈折率は約2.4というように基板のサファイアと発光層のInGaNとで屈折率が大きく違う。このため,基板と発光層との界面で光が反射しやすく,チップ内から外部に光を取り出しにくい。一方,InGaNの屈折率は組成によって若干変わるものの,GaNと数%しか違わない。そのためGaN基板品ではサファイア基板品に比べて基板界面で全反射する光が少ない。つまり光をチップ内から外部に取り出しやすい。

 さらに,蛍光体材料を混ぜ込んだ樹脂と接するGaN基板の表面に凹凸を設けたことにより,チップ内の光をさらに外へ出やすくした。その結果,GaN基板品の光取り出し効率は,サファイア基板品に比べて1.5倍になった。多くのLEDでは内部量子効率の値が十分に高まっており,LEDの発光効率で競合品と差をつけるには,チップ内から光をチップ外に取り出す効率を向上させることが重要だと考えている。

――導電率や熱伝導率の高さはどのように貢献しているのか。

パナソニック半導体オプトデバイス GaNは導電率が高いため,LEDの明るさを増やしやすい。サファイアの場合,明るさを得るためにチップを大型化したり,大きな動作電流を流したりすると発光層へ均一に電流を注入しにくく,電流密度の高い部分が生じる。そのため接合温度上がってしまい発光効率が低下してしまう。GaN基板であれば発光層での電流密度を均一化しやすく,接合温度が上昇しにくいので高出力化に向く。さらにGaNの熱伝導率が高いので,接合温度は高まりにくい。その結果,例えば350mAで駆動させた場合,サファイア基板を使った当社従来品や他社品に比べて光の全放射束を1.5倍以上にできた。

 導電率が高いと電極構造を簡素化できるので,サファイア基板に比べてフリップチップ実装が容易になった(図4)。サファイア基板品では,発光層に均一に電流が広がるようにするので電極構造は複雑になりやすい。そのためフリップチップ実装する場合,例えばバンプがp型電極からずれてn型電極に誤って付いてしまう場合などがあった。

 また電極構造が単純になったため,サファイア基板品よりも小さなチップ・サイズで同程度の明るさを得ることができた。n型電極の面積を減らし,p型電極の面積を拡大しやすいためである。フリップチップ実装では,p型電極とn型電極をチップの横方向に取り付ける,いわゆる横型の電極構造を採る。この場合n型電極を発光層などを削って取り付けるので,n型電極の面積が小さいほど光出力は大きいことになる。

――基板に積層するGaN系結晶との格子定数が近いことで結晶欠陥はどの程度減少したのか。

パナソニック半導体オプトデバイス サファイア基板の場合に比べて,基板上のGaN系結晶の欠陥密度は106cm-2と1/100以下になり,発光効率が高まった。サファイア基板では,結晶欠陥を減らすためのバッファ層を設けても109cm-2であった。

――GaN基板の,導電率や熱伝導率が高いといった特徴はSiC基板にもある。米Cree,Inc.などはSiC基板を使って青色LEDを製造している。SiC基板との違いについてどう考えているのか。

パナソニック半導体オプトデバイス SiC基板もサファイア基板に比べて導電率や熱伝導率は高い。しかし,SiCの場合,GaNに比べて発光層の転位密度が2ケタ高いと認識している。そのため,発光効率や信頼性の面からGaNが有利だと考えている。

――今回の白色LEDは青色LEDチップと蛍光体材料を組み合わせて白色光を作っている。蛍光体材料を混ぜた樹脂はどのように塗布しているのか。

パナソニック半導体オプトデバイス 単に樹脂を上から塗布する場合に比べて,色むらを抑制できるような工夫を施した(図5)。詳細は明かせないが,例えば樹脂の粘性を変更している。