図1 ETechの基調講演に登壇したJeff Hawkins氏
図1 ETechの基調講演に登壇したJeff Hawkins氏
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図2 NuPICのデモ・アプリケーション。左に手書きのヘリコプターの絵がある。絵にはノイズが加えてある。右にはNuPICが似ているとした判断した絵が表示される。絵の上の青いバーでNuPICが判断した類似度を表示している。
図2 NuPICのデモ・アプリケーション。左に手書きのヘリコプターの絵がある。絵にはノイズが加えてある。右にはNuPICが似ているとした判断した絵が表示される。絵の上の青いバーでNuPICが判断した類似度を表示している。
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米サンディエゴで開催中の「O'Reilly Emerging Technology Conference 2007」(ETech)の基調講演に,米Numenta社 FounderであるJeff Hawkins氏が登場した(図1)。Hawkins氏は最初のPalm OSの開発者として業界に知られており,最近は大脳新皮質の研究に力を注いでいる。Numenta社は,Hawkins氏の研究成果を基に,人間の脳の働きを模した「Numenta Platform for Intelligent Computing」(NuPIC)と呼ぶ新しいソフトウエア技術を開発した。「犬を見たら,人間は簡単にそこにある物体を犬だと識別できる。コンピュータにこうしたことをさせるのは,これまで困難だと考えられてきた。NuPICは人間の脳の働きを模すことによって,コンピュータでも簡単に識別できるようにする技術だ」(同氏)。同社は2007年3月5日にNuPICの研究向けのバージョンを公開した。名前は公開されていないが,複数大手自動車メーカーや防衛向け技術を開発している企業などと,NuPICの応用について)話し合っているという。

NuPICを利用したアプリケーションの例として,Numenta社は簡単な画像認識ソフトをLinux搭載サーバー上に構築して,デモンストレーションした。このアプリケーションは,200個の絵を認識できる(図2)。人間がどれかに近い絵を描けば,アプリケーションは高い確率で元の絵を識別する。「私は,視覚認識技術を長い間に研究してきたが,こうしたことができる技術を今までに見たことがない」(Numenta社,Vice President of EngineeringのSubutai Ahmad氏)。

 NuPICの基本の技術は「Hierarchical Temporal Memory」(HTM)と呼ぶ。HTMはニューラル・ネットワークに似ているが,時間を取り扱える点が大きな違いだという。センサーなどから入力したデータを階層型のネットワーク上にノードに「学習」させる。その際に,ノードは学習パターンが通過していく時間を加味することによって,認識精度を高めるのが特徴である。

NuPICは大きく「Numenta Runtime Engine」と「Numenta Tools Framework」から成る。前者はノード間におけるメッセージの転送などを管理する実行環境である。後者は開発環境である。同社はこれらソフトを無償で公開している。適切な用途を探るため,研究バージョンの公開を決めた。現在Mac OS XやLinux対応版が公開されている。研究利用のため無償だが,商品化するときの条件などはまだ決まっていない。