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サッカーのワールドカップで話題になった試合球「+チームガイスト」。アディダスのブランドだが,モルテンという広島のメーカーが生産している。共に開発し,試合球は全数供給する。モルテンは構造,製法を提案する力を持つ。ボールという得意技術があれば,共通技術,類似技術はある。自動車部品から瓦,桟橋まで展開できる。

 サッカーのワールドカップで試合球になった「+チームガイスト」(図1)。会期中の段階で1500万個を販売し,独アディダス社はホクホクだ。このボール,契約の関係などもあり「アディダス社製」と呼んで全く問題はないのだが,「ものづくり」として細かい事実を言うと微妙に違う。


図1●+チームガイスト

 実はこの試合球,広島にあるモルテンという会社がアディダス社に全量納めている。モルテンは世界のあちこちに工場を持ってるからメード・イン・ジャパンでこそないが,プロデュースド・バイ・ジャパンであることは間違いない。

アディダスと役割を分担

 ワールドカップ試合球のようなサッカーのトップモデルはモルテンが全数生産している。でも,だからといってアディダス社が空洞化したというつもりは全くない。大方針を出したのは彼らなんだ。

 すごいもんだよね。唐突に「ぬれても重くならないボールはできないか」って言ってきたらしい。無茶で,しかも漠然とした要求だよね。“コンセプト”なんてはやり言葉にすると軽くなっちゃうけど,こういう「夢を描く力」というのは欧州の人には勝てないね。

 でも,これを受けてモノにするのは日本の得意分野だ。具体的にどうするか,モルテンは考えた。

 今の,五角形と六角形の白黒のボールは接合線が長い。何しろ32分割してるんだ。ここから水分を吸うんだから,接合線を短くしちゃえばいいんだ。で,できたのがあの面の分割。2枚羽根のプロペラが6枚,ひねりの入った羽根が3枚ある手裏剣みたいな形が8枚,合計14枚だから,接合線はずいぶん短くなった(図2)。中のカーカスはまた違う分割をするんだけどね。


図2●新しい構造
パネルの形を変えて,真球度を上げた。

 もう一つ,水を吸う理由は,接合線に沿って手縫いで作るからだ。針で縫った穴から水が入る。これを熱圧着に変えたことも,水を吸わなくなった理由だ。これで吸水量は従来の1/2。雨に濡れても0.1%しか重くならない。

 さらに,ボールの表面を印刷の上から透明な樹脂でコーティングした。表面の摩耗が最小限に抑えられ,使い込んでも印刷が落ちにくい。