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老舗には“秘伝”の技があり,それは競争力の源だ。ブランド力があり,実力が伴っていれば最強だ。ただし,それが「昔ながら」である必要はない。新技術をどんどん取り入れていけばよい。それを“秘伝”のままにしていてはもったいない。手広く展開することで,新しいビジネスが生まれることもある。

 富山の鱒(ます)ずし,福井の蟹(かに)飯,敦賀の烏賊(いか)飯,鳥取の蟹ずし…日本海側に行くと,うまい駅弁に出合うことが多い。JR山陰本線の米子駅には「吾左衛門寿し」という名物駅弁がある(図1)。地元の農家に作付けを依頼した米「ヤマヒカリ」で炊いたご飯に,近くの境港で水揚げする4年ものの寒鯖(さば)を乗せ,日高産の昆布で包んだ押しずしだ。鯖以外にも,鱒や鯛(たい),蟹,鯵(あじ)と取りそろえている(図2,3)。東京では日本橋三越や明治屋,歌舞伎座の中で手に入る。この顔触れを見ても,立派なブランド品だということが分かるでしょ。

 名物,しかもブランド品に似合わないことに,この駅弁は冷凍物だ。ただし,「似合わない」なんていう感覚は捨てた方がいいよ。今は冷凍の方がうまいってこともあるんだ。

どうしてくれるんだ2000食

 吾左衛門寿しを作っているのは米子駅のそばにある米吾という会社。駅名は「よなご」だけどこっちは「こめご」だ。創業270年の老舗,といっても駅弁は鉄道ができてから始めたんだけどね。

 吾左衛門寿しの名前は先祖の米屋吾左衛門から取った。略して米吾で,これが社名の由来だ。廻船(かいせん)問屋だった吾左衛門が船乗りたちに持たせたすしが原型だ。駅弁にしたのは1978年,この時は冷凍ではない普通の作り方だった。