「imagePROGRAF iP9000」で「松林図屏風」を出力する様子
「imagePROGRAF iP9000」で「松林図屏風」を出力する様子
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発表会場では,裕人氏による金箔加工のデモンストレーションも行われた
発表会場では,裕人氏による金箔加工のデモンストレーションも行われた
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 京都国際文化交流財団とキヤノンは2007年3月5日,日本の文化財をデジタル技術で保存し,後世に継承することを目的とした「文化財未来継承プロジェクト」(愛称:綴【つづり】プロジェクト)を発足させると発表した。これは,京都国際文化交流財団が主体となって進める文化財保存活動の一環として行うもの。屏風(びょうぶ)や襖絵(ふすまえ),水墨画などの文化財をデータとして保存するとともに,デジタル技術を応用して高精細な複製品を制作する。

 複製制作では,まず大型のスキャナもしくはデジタルカメラで,対象となる文化財を原寸大で複製できる高解像度で入力する。これまで京都国際文化交流財団は,撮影の技術とデジタル撮影機器を組み合わせた撮影手法について研究しており,複製に当たっては,対象作品に最適の入力方法を選ぶという。取得したデータはパソコンに取り込み,撮影時の光源ムラなどで生じる色調や濃度のバラつきを修正したり,オリジナルとの色あわせを行ったりする。

 出力には,キヤノンの大判プリンタ「imagePROGRAF iP9000」を使用する。同機は,1524mm幅の用紙に対応。4plでの吐出が可能なプリントヘッドを搭載しており,12色の顔料インクによって最高2400×1200dpiと高精細に印刷できる。印刷した後は,伝統工芸士の裕人〓(〓=石偏に「樂」)翔(ひろとらくしょう)氏が金箔や金泥を載せる。このとき,経年変化を表現する技法を使用し,オリジナルの風合いをより忠実に再現する。用紙は,コウゾを主原料にミツマタを加えた専用の和紙で,金箔加工などをしやすいように新たに開発した。これらの工程を経た絵画の本紙を表装し,仕上がりとなる。

 複製の対象となるのは,(1)海外に流出した作品 (2)日本を代表する水墨画 (3)歴史をひもとく文化財----の3種類。例えば(1)では,既に米The Metropolitan Museum of Art所蔵の「八橋図屏風」(尾形光琳)や「列子御風図(れっしぎょふうず)襖」(狩野孝信),「老梅図襖」 (狩野山雪)を原寸大で復元することが決まっている。このうち八橋図屏風については現在,撮影手法を検討しており,2007年秋には完成する予定だ。(2)としては,雪舟や雪村,曾我蕭白(しょうはく)の作品が候補に挙がっており,(3)では,「洛中洛外図屏風」や「長篠合戦図屏風」など,歴史の教科書に掲載されている作品が主な対象となる。そのほか現在,東京国立博物館所蔵の「松林図屏風」(長谷川等伯)や,米Seattle Art Museum所蔵の「琴棋(きんき)書画図襖」(狩野孝信)などの複製について,協議中という。

 特に(1)については,明治時代の廃仏毀釈の影響や,第二次世界大戦後の混乱で海外に流出したものを里帰りさせるのが狙い。複製品は,かつてその作品を所蔵していた社寺に寄贈する。そのほか(2)(3)は,研究/公開用に所蔵館へ寄贈したり,小中学校に貸し出したりする予定。

 これまでも京都国際文化交流財団では,文化財のデジタルアーカイブ化を推進しており,それらは「一定の成果を挙げてきた」(同財団)という。今回,従来の取り組みによって得られたノウハウにキヤノンの機器や技術を合わせ,さらに伝統工芸の匠の技を融合することで,「デジタルアーカイブの新しい時代を作る」(同)ことを目指す。