フィギュアとそれを持つモデルさん
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フィギュアのアップ
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 中村超硬(本社大阪府堺市)は,非接触3次元測定器や3次元プリンタなどのデジタル技術を駆使して作成したメイドのフィギュアを,ナノテク関連展示会「nano tech2007」で展示した。同社を含む中小企業5社の連合組織「ファイブテックネット」のブースに展示したもの。

 フィギュアのモデルとなった女性が,同ブースではコンパニオンとして来場者を出迎えており,フィギュアと実際のモデルを比較することが可能。比較すると顔の表情などが非常に似ており,最近の非接触3次元測定器のデータ取り込み精度の向上や3次元プリンタの造形精度の向上などが見てとれる。

 とはいっても,精度自体はミクロンレベルの話であり,展示会のタイトルにもなっている「ナノテク」とは言えない。それでも同社がフィギュアを展示したのは「新しい技術を研究者に見てもらった上で話をすると,これから自社が進むべき道が開けてくる」(同社耐摩耗部品事業部生産技術課 兼 品質保証課課長の吉武理人氏)からだという。

研究者と話せば未来の要求が分かる

 そもそも,同フィギュアを作成する上で,中村超硬が行ったのは「企画だけ」(吉武氏)。このフィギュアを作製する上では,

  • (1)メイドの格好をしたモデルの形状を非接触3次元測定器でスキャンして取り込む
  • (2)取り込んだデータは一部欠落するなど不具合も多いので,モデリングツールでデータを修正する
  • (3)粉末材料を接着剤で1層1層固めていくタイプの3次元プリンタによりフィギュアを作成する
――といった手順を踏んだが,一連の作業は協力会社であるケイズデザインラボ(本社東京)と小浦石油(本社大阪市)の3Dデジタルサービス事業部が行ったという。中村超硬ではデータ作成やフィギュア作製を手掛けていない。

 それでも中村超硬が今回出展したのは,同社が非接触3次元測定器やモデリングツール,3次元プリンタの導入を検討しているからだ。これらのシステムをすべて購入するには,数千万円が必要となる。中小企業としては思い切った投資を迫られる。このため,来場者にフィギュアを見てもらって一連のプロセスを説明し,そのなかでも主にナノテク関連の研究者らと今後の技術の方向を探り,中村超硬が持つ技術力と併せて購入するメリットがあるかどうかを見極めたいというわけだ。「研究者は今後の技術に対してインスピレーションを持っている人が多い。現状の最先端の技術を見せると,次はここまでできるのじゃないかという要求を突きつけてくれる。その要求はハードルが高いことが多いが,次の儲けるネタを考える上では非常に参考になる」(吉武氏)。

 中村超硬の主な事業は,超硬合金や焼結ダイヤモンドなどを素材とした部品の製造。具体的には各種のノズルや治具などを作成しており,一つの製品のロット数は少ない。高硬度の素材を高精度で一つひとつ仕上げていく技術を持っているわけだ。その中村超硬が3次元データを核とした試作技術を保有することで,高硬度の複雑形状品に対して試作から現物までを一貫して請け負える体制が整う。今は現物でしかないような部品でも,スキャンして3次元データ化した上で,一部改良して復元するといったことも可能だ。こうした応用は出展前にも想定できたが,さらにどのようなニーズが存在するのか,来場した研究者との話をする中で明確にしたいとする。

日本文化のメイドに人は集まる

 前述したように,フィギュアの精度はナノレベルにはほど遠い。また,中村超硬と一緒にファイブテックネットを組織する他の4社〔クリスタル光学(本社滋賀県大津市),スズキプレシオン(栃木県鹿沼市),東成エレクトロビーム(本社東京),ピーエムティー(本社福岡県)〕に関しても,一部ナノレベルの精度を達成している技術などはあるが,それだけをウリにして仕事をしているわけではない。しかし,研究者と話す機会が持てる展示会としてnano tech展を評価し,参加するのは今回で3度目になる。

 ファイブテックネットが最初に参加した展示会は,2004年に開催された「日本国際工作機械見本市(JIMTOF)」。加工などを得意とするファイブテックネットが参加する展示会としては,ごく自然だった。ところが,JIMTOFに出展してみて分かったのは,来場者の中で購買部門に所属する人の比率が多いこと。購買担当者の人と話すのは,至近の受注を増やす意味では重要。しかし,少し先の技術を踏まえた上での話しはできない場合が多い。研究者と話をするという点に,展示会に出展する意義を求めるファイブテックネットとしては,これから自社製品にナノテクを応用したり,よりナノレベルの精度を追求したりすることも視野に入れていることもあり,研究者が集まるnano tech展に出展する方が良いというわけだ。

 展示会に出展するからには,多くの人にブースに立ち寄ってもらいたい。そこで考えたのがメイドの制服だった。メイド喫茶は日本の文化として,今や海外にも広く知られるようになった。このため,海外からの来場者には,目にとまりやすい。また,日本においてメイド喫茶が広まったといっても,真面目な人が比較的多い研究者には,行ったことがない人が多いはず。このように考え,昨年からコンパニオンにはメイドの制服を着てもらっている。

 メイドの制服は,モデリング技術,造形技術の高さをアピールするのにも結果的に役立っている。メイド服はひらひらしていたりするなど,再現するのが非常に難しいからだ。「よくコンパニオンが展示会で着ているボディ・コンシャスの制服の方が,はるかにモデリングや造形は楽なはず」(吉武氏)。

 今回展示会に出展したことで「これらの3次元ツールを利用した事業の,はっきりとした姿が見えたわけではない」(吉武氏)。しかし,いろいろなアイデアは拾えたという。これらを踏まえた上で,今後の事業展開を模索していく。


【訂正】記事掲載当初,ファイブテックネットの各社がまったくナノテク技術と関係ないと誤解されるような表現をしていました。お詫びして訂正します。記事の文面は修正済みです。