単層カーボン・ナノチューブ(SWCNT)内に吸着した水分子が,雰囲気中のガス分子と入れ替わる「交換転移」現象が,初めて発見された(発表資料)。SWCNTが,特定のガス分子を選択的に通すフィルタや,いくつかのガスの種類を選別できるセンサとして応用できる可能性を示した。

 首都大学東京 大学院 理工学研究科 助教授の真庭 豊氏と,産業技術総合研究所(産総研)ナノテクノロジー研究部門 自己組織エレクトロニクスグループ長 片浦 弘道氏らが,ガス共存下におけるSWCNTへの水の吸着現象について調べた結果,この原理を明らかにしたもの。既に,直径1nm程度のSWCNTが水を吸着できることは分かっていたが,これまでの実験は水蒸気雰囲気中だった。今回は,水素,ヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトン,酸素,窒素,メタン,エタン,二酸化炭素の10種のガス雰囲気中で,圧力は1気圧以下,温度は室温から-180℃の範囲という条件を設定し,水の吸着現象を解明しようとする実験とシミュレーションを行った。

 その結果,アルゴン,クリプトン,酸素,窒素,メタン,エタン,二酸化炭素の7種のガス中で,交換転移が発見された。交換転移の起こる条件(温度など)は,ガスの種類に依存するものだった。一方,ヘリウム,水素,ネオンでは,温度を-170℃以下まで下げても交換転移が起こらず,チューブを通って反対側へ抜け出ることもないことが分かった。この原理を適用すれば,分子を選択するナノバルブとして使用できる。

 さらに,交換転移に伴いSWCNTの電気抵抗が急激に変化することを観測した。交換転移の環境条件だけでなく,電気抵抗が変化する割合もガスによって違うことが測定された。これにより,SWCNTで作った同じフィルムを,特別な化学修飾やコーティングなどなしに,いくつかのガスの種類を選別できるガス・センサとして用いることができると考えられる。

 この成果は,英国の科学誌「Nature Materials」のオンライン版に2007年1月21日付で,「Water-filled single-wall carbon nanotubes as molecular nanovalves」と題して発表されている(Nature MaterialsのWWWサイト上で紹介されているアブストラクト)。なお,この研究は,科学技術振興機構CRESTの補助を受けて行われた。