次世代DVDの著作権管理技術「AACS」の暗号が破られ,一部のHD DVDコンテンツがコピーできると主張するソフトウエアが,ネット上で話題を呼んでいる。この問題を報じたThe New York Times紙によれば,実際に暗号を解除した映像コンテンツがファイル共有サービス「BitTorrent」に流出しているという(同紙WWWサイト)。AACSのライセンスを管理しているAACS LAは,実際にコピーが成功をしたかを含めて事実関係を調査している。

 AACSを破るとされるソフトウエア「BackupHDDVD」を開発したのは,ハンドル名「Muslix64」を名乗るプログラマーである。Muslix64は2006年12月,ネット掲示板Doom9.net上で,AACSの暗号を破ったことを明らかにすると共に,同ソフトウエアを公開した。Muslix64は,暗号を解除したコンテンツを実際にパソコンで再生する様子をYouTubeで公開した。

 ただしMuslix64は,BackupHDDVDを使うための条件として「コンテンツ固有の『Title Key』を見つける必要がある」としていた。Title Keyはコンテンツの暗号解除に使う暗号鍵であり,この鍵自身が128ビットのAES暗号で暗号化されている。Muslix64はTitle Keyの入手法を明らかにしておらず,これだけでは「AACSが破られた」と証明できない状態だった。

 だが2007年1月に入って,Doom9のフォーラム上で「Title Keyの生成に成功した」との書き込みが相次いだ。Title Keyは,米InterVideo社のパソコン用DVDプレーヤー・ソフトウエア「WinDVD」をクラックして入手したという。Title Keyの入手が事実とすれば,ハッカーらはWinDVDを解析して,同ソフトが持つ暗号鍵「Device Key」の取得に成功したか*1,あるいはメモリ・ダンプで直接Title Keyを入手したとみられる。現時点で,54タイトルのTitle KeyがWWWサイトwww.hdkeys.comで公開されている。

*1Device Keyを使い,HD DVD-ROMに書き込まれた「Media Key」の暗号を解除することで,Title Keyを入手できる。

 今回のハッキングが事実としても,1999年にDVDの著作権管理技術CSSの暗号が破られた例と異なり,ただちにAACSシステム全体の崩壊につながらないとみられる。AACSは,今後量産する次世代DVDパッケージ・メディアについて,WinDVDが持つDevice KeyではTitle Keyを解読できないようにする「Revocation」を行えるためだ。これが実行されれば,既存のWinDVDは今後発売されるHD DVDおよびBlu-ray Discタイトルを再生できなくなる。ただ,本来は秘密にすべきDevice Keyが何故暴かれたのかを明らかにしない限り,同じ事が繰り返されかねない。