2007 International CESの会場の一つである「Sands Expo Center」に行った人なら，会場の奥のほうで別の展示会が催されていたことに気づいたことだろう（図1，図2）。そう，このところ毎年，CESとほぼ時期を同じくして開催されている「AVN Adult Entertainment Expo（AEE）」（通称，裏CES）である。この業界で世界最大の規模といい，今回は約340社・団体が出展した。
今回のCESでの話題の一つは，Blu-ray Disc対HD DVDという，HDTV画質のパッケージ媒体における主導権争い。これまでも，映像媒体の趨勢を決めてきた影の主役はアダルト・コンテンツだと言われている。ハリウッド映画だけを見ていてはいけないとばかりに，CES特別取材班はAEEの会場にも足を踏み入れたのだった。
まずはプレス登録である。AEEのプレス・ルームに少し恥ずかしげに入っていくと，なんといきなりHD DVDプレーヤと大画面の薄型テレビのセットが置かれていて（図3），CES会場のごとくデモンストレーション映像が流れているではないか（映像の中身は全然違うが）。「あそこは先進技術の取り入れではトップ・クラスだね」（業界関係者）という定評がある大手プロダクション，米Digital Playground, Inc.（同社のWebサイト。クリックの際は周囲にご注意ください）の作品である。
同社は，今回のAEEを前に初のHD DVDタイトルを4つ出すことを発表した。「まず1月15日の週にHD DVD版の『Island Fever 3』を出荷し，続いて『Pirates』『Jack's Teen America 3』を出す。そして1月下旬には「Island Fever 4」を出荷する予定だ」（同社）。このうち「Pirates」は，AEE最終日の1月13日に発表になった「AVN'S 2007 AWARD」で「BEST SELLING」および「BEST RENTING」の賞を受けたほどDVD版などで売れまくったタイトルだという（図4）。
さっそく会場に入ってみよう。2005年のときと同じように（前回の裏CESレポート），CESの最終日である1月11日に行ったのだが，やはりものすごい盛り上がりようだ（図5）。大手プロダクションのブース受付には，有名女優らが席を並べている。その女優1人ひとりの前には，ポスターなどにサインをもらおうというファンで長い列ができている。
米Wicked Pictures（同プロダクションのWebサイト。クリックの際は周囲にご注意ください）のブースでも，HD DVDタイトルの実演が行われていた（図6）。同社は2006年12月中旬に「Camp Cuddly Pines Power Tool Massacre」というタイトルをHD DVDフォーマットで投入，「アダルトで初のHD DVDを発売した」（同社）と胸を張る。なぜBlu-ray DiscではなくHD DVDかというと「媒体コストが安い」（同社）というストレートな答えが返ってきた。具体的なコスト差など詳しいことは聞けなかった。
これらの2社以外のブースでは，次世代DVDのパッケージを見ることはできなかったが「HDで撮影した」とうたうポスターなどはちらほらと見かけた（図7）。時期をみて，作品を次世代DVD版に変えて再発売しようとしているようだ。
大手プロダクションのブースでは，担当者を見つけて話を聞こうにも，女優にサインを求める長い列に阻まれて何もできない。そこで中堅プロダクション米East Coast Whoppersのブースに行ってみた。すると，チラシに「HD DVDとBlu-ray Disc版も」とある（図8）。勢い込んで聞いてみると「今はない」とのこと。いつごろ出すのか聞いても，その場にいた人たちでは「分からない」。コンテンツの撮影と編集はHDでやっているとしており，やる気はあるのだが，いつ出すのかについては様子見なのかもしれない。
ほかの中堅プロダクションのブースに行って「次世代DVDのコンテンツを出す計画はないか」と聞いてみた（詳しくは書けないがちょっとマニア系のコンテンツを作っているプロダクションだった）。すると，計画があるとのこと。「まずはHD DVDのコンテンツを作って5月に出す。その後で，データをコンバートしてBlu-ray Disc版も作る」という。
もちろん全部のブースを回れたわけではないが，アダルト系コンテンツについては，今のところHD DVDが圧倒的な存在感を見せていた。カギを握るのは，今後の両陣営のプレーヤの普及台数と，媒体コストである。業界内では「Blu-ray Discのプレーヤはほとんどがプレイステーション 3だが，ゲームをやるユーザー層とアダルト・コンテンツを買うユーザー層は違う」「いや，リビングに据え置かれる通常のプレーヤよりも，自分の部屋に持ち運べるゲーム機のほうがアダルト・コンテンツを視聴しやすい」といった議論も沸き起こっており，行く末はまだ見えない状況だ。
