HOYA CEOの鈴木洋氏
HOYA CEOの鈴木洋氏
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ペンタックス 社長の浦野文男氏
ペンタックス 社長の浦野文男氏
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記者会見では時折笑みがこぼれた
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 HOYAとペンタックスは,合併に関する記者会見を開いた(速報記事)。今回の合併は,優良企業であるHOYAがペンタックスを手に入れる格好だ(NBonlineの企業解説記事)。合併会社「HOYAペンタックスHD」のCEOには,HOYA CEOの鈴木洋氏が就く。

 合併会社は,HOYAが手掛けている眼内レンズや,ペンタックスの内視鏡といった医療分野に重点的に経営資源を投じていく。ペンタックスのカメラ事業については,現状の組織やブランドを維持する方針である。

 以下では,会見における両社の発言を整理して紹介する。回答者は,HOYAがCEOの鈴木洋氏,ペンタックスが社長の浦野文男氏である 注1~2)

目的・医療関連

――合併する狙いは?

HOYA  当社は数年来,収益性を高めてきたが,将来的な成長性を確実にするには,事業分野の拡充が必要と考えていた。製造業という業態が全般になかなか難しくなりつつある中で勝ち残るには,医療分野が外せない。

 こうした視点で見ていくと,医療機器関連で高度な技術力を持つペンタックスが,非常に魅力的だった。当社とペンタックスの医療関連事業は現状,年間売上高が400~500億円。これをできるだけ早期に倍増させたい。

ペンタックス  医療分野は市場としても技術としても未開拓部分が大きい。これまでも当社は中期経営計画に基づき医療関連事業を拡大させてきたが,当社単独ではやれることに限りがあった。医療分野は投資回収まで時間がかかるという特性もある。こうした課題は,HOYAの経営ノウハウや資金力を加えることで解決できるはずだ。

――合併ではなく,両社出資の医療機器会社を作る手もある。

ペンタックス  実は2年ほど前,HOYAとそうした案を検討した。しかし,当社における利益の稼ぎ頭である医療機器部門を外に出せば,カメラ事業と光学部品事業だけで生きて行かなければならない。それは(株主の期待に応える利益水準の確保が)難しいと判断して断った。

――どんな医療機器の市場を新会社は開拓するのか。

ペンタックス  例えば低侵襲治療(手術に内視鏡を用いることで体への負担を抑えた治療法)関連だ。この分野で強いオリンパスに対抗していく。

HOYA  低侵襲手術は例にすぎない。今は言及できないが,当社とペンタックスは,ある共通の概念を持って,新しい領域を開拓していく計画がある。

カメラ関連

――高収益のHOYAが,ペンタックスのカメラ事業を抱えることはマイナスでは?

HOYA  「小さな池(市場)の大きな魚(会社)」という当社の経営方針からのズレを問う質問だと思うが,自らが市場をどう定義するかによるのではないか。デジタル・カメラ一般のシェアを追うつもりはない。小規模でもキラッと輝く事業にするため,集中と選択をしっかりと進めたい。カメラ事業も,投下資本に対して十分なリターンを得られる事業になると考えている。

 カメラ事業は原則,ペンタックスの組織を引き継ぐ。HOYAペンタックスHDは法令上の持株会社ではないが,カメラの事業子会社を抱えるイメージだ。HOYAがカメラ事業に対してできることは経営ノウハウの注入くらいにとどまるのではないか。

ペンタックス  当社は現在,コンパクト機も一眼レフ機も手掛けているが,もしデジタル・カメラ市場全体に占める一眼レフの比率が高まれば,一眼レフ機に集中したいと考えている。当社は銀塩時代に,一眼レフ機を専門に30年ほど手掛けていた歴史がある。

――ペンタックスは,一眼レフ機事業でSamsung Techwin社と提携しているが。

ペンタックス  Samsung Techwin社には,今回の合併の話をまだしていない。(Samsung Techwin社にとって悪影響はないはずであり)成果も出つつあるので,当社は提携を続けるつもりだ。現在,市場で好評な「K10D」は開発の1割をSamsung Techwin社が担った。現在,開発中の機種では2~3割を担当してもらう予定だ。

――新会社は光学機器の垂直統合型企業になる。硝材などの既存取引先と利益相反にならないか?

HOYA  ほかのカメラ・メーカーから特殊な硝材の発注を受けたとき,その情報を直接担当する部署だけに留めるといった商道徳を守る。これまでも当社は,半導体製造用のマスクやHDD用基板で,信頼を裏切らずにきた。

光学部品関連

――合併はレンズなどの光学部品事業に対してどんな影響があるか?

HOYA  合併によるシナジーをすぐにでも得られるのは,光学部品事業だろう。この分野は台湾など東アジア勢の攻勢が強くなっている。我々は単に材料,単に加工ではなく,機器設計なども見通して光学部品を手掛けることで,付加価値を創造していきたい。

ペンタックス  当社は光学材料をHOYAとともに開発したこともあるが,そこには別会社という壁があった。この垣根がなくなる利点は大きい。ただし,合併後に硝材の社内調達率を100%にすることはない。どの会社から買うかは,その硝材次第だ。

――東アジア勢の攻勢という点では,台湾Asia Optical Co., Ltd.(亜洲光学)が,光学式手ブレ補正機構を量産しているようだ。

ペンタックス  Asia Optical社の手ブレ補正機構は,当社の特許に抵触している可能性がある。既に抗議した。

その他

――HOYAが得意な半導体製造用のマスク事業や,HDD用の基板事業に,合併は何か影響を与えるか?

HOYA  直接のシナジーはない。ただし,人的リソースの面では利点があるかもしれない。当社は2ケタ成長を続けてきたために,人的リソースがやや不足している。ペンタックスには優秀な技術者が多数いるので,もし諸事情が許せば貸してもらえるのではないか,と期待している。

ペンタックス  当社に人材が余っているわけでないが,協力できる面はあるだろう。例えば,当社が長年手掛けているのに,なかなかアウトプットがでない。そんな研究開発にHOYAが持つノウハウを生かせるのではないか。

――HOYAはこれからもM&Aを続けるのか。

HOYA  事業ポートフォリオの拡充は永遠の課題。いい話があれば検討する。ただし,当面はペンタックスと一つの会社になることが最優先なので,積極的にM&Aを仕掛けることはないだろう。


注1)合併はペンタックスの株主にHOYAの株式を割り当てる株式交換によって実施する予定。交換比率に基づくプレミアム(ペンタックスの株主が受ける利益)は,2006年12月20日の終値比で10.5%。3カ月平均比で27%である。

注2)2006年12月21日終値ベースの時価総額は,HOYAが1兆9619億円。ペンタックスは881億円。2005年度の連結売上高はHOYAが3442億円,ペンタックスは1422億円。連結営業利益はHOYAが1011億円,ペンタックスが30億円。2006年9月30日時点の連結従業員数はHOYAが2万7974人,ペンタックスが5651人である。


■訂正
初出時,合併後の会社の社名が誤っておりました。現在の記事は訂正済みです。