松下電器産業は2006年12月19日,金属微粒子の混入で生じる内部短絡に強いリチウムイオン2次電池セル(電池セル)の本格量産体制を確立したとする記者会見を開いた。技術説明の後,松下電池工業取締役社長の石田徹氏と,同社技術開発センター所長の生駒宗久氏が報道陣からの質問に回答した。

──電池セルの体積(直径18×高さ65mm)が限られる中,HRL(Heat Resistance Layer,アルミナから成る耐熱層)を追加すると,正極と負極の厚みが薄くなるのではないか。それでも容量が増えるのはなぜか。

生駒氏:まず,HRLの厚さは数μm程度。併用するセパレータを若干薄くして吸収し,正極と負極の体積は維持した。加えて,活物質を代えた効果がある。コバルト系正極の活物質の充放電容量は140mAh/gであるのに対し,ニッケル系正極の活物質は180~190mAh/gだ。従って,HRLを設けても電池の高容量化設計は可能だ。

──ニッケル系の正極は熱暴走を起こす可能性はないのか。

生駒氏:正極の活物質が何であろうが熱暴走は起こり得る。内部短絡を防止するためのHRLを設けること以外に,いろんな安全技術を搭載して熱暴走を防ぐようにしている。

──コストは上昇しないのか。

石田氏:確かに,製造工程が増える分,コストは上昇する。それをいかにものづくり面で吸収していくか(が課題)だ。一方で,安全性を含めたトータルの性能向上(によるコスト上昇)を顧客に評価していただきたいと思っている。

──コバルト系よりもコストは高いのか。

石田氏:コバルト系よりもニッケル系の方が材料コストは低い。

──HRLを使うことで,内部短絡から発火に至る可能性はどれくらい下がるのか。

生駒氏:HRLは1000℃以上の耐熱性を持つため,内部短絡した際に発生するジュール熱でも溶けない。従って,正極と負極は(金属微粒子などの)導電性の異物が入っても常に絶縁された状態にある。内部短絡した部分は(局所的に)発熱するが,それが周囲に広がっていくことはない。そのため,顧客には(内部短絡した場合でも)影響はない。

──HRLを搭載した製品の発表で,パソコン(PC)向け電池パックのシェアをどこまで高められるか。

石田氏:安全かつ高容量という価値を顧客にどこまで評価してもらえるかによる。(シェアを高めるために)当社の安全に対する提案してアピールしていく。

──HRLを使った場合,ニッケル系で高容量化はどこまで進むか。

生駒氏:HRLは安全に関するベース技術となる。これを基盤に正極や負極の進化で高容量化していく。過去10年でリチウムイオン2次電池の容量は2倍以上となっている。当社はニッケル系で2.9Ahからスタートしたが,極板や,粉体の活物質材料の技術などの進化で,容量は年々アップしていくだろう。少なくとも,3.1Ah以上にはなっていく。

──角型などその他の電池にもこのHRLを展開するのか。

生駒氏:当然,展開していく。例えば,携帯電話機やデジタルカメラなどにこの技術を投入していきたい。

──カーボン系以外の負極でもこの技術を応用できるのか。

生駒氏:できる。

──HRL技術を他社にライセンスするか。

石田氏:他社から話があれば個別に検討する。