NTTドコモは,ユーザー自身がOSやアプリケーションを選択できる携帯電話機の仕様を米Intel Corp.と共同で策定した(Tech-On!の関連記事)。開発の背景やポイントなどを,仕様策定にあたった総合研究所 未来端末研究グループリーダ 主幹研究員の竹下敦氏と同グループ 主幹研究員の中山雄大氏に聞いた。

――開発の背景を教えてください。
 携帯電話機をパソコンのようにカスタマイズしたい要求があると考えました。企業が自社の事情に応じてドキュメント再生用ソフトウエアを入れたい要求もあるでしょうし,個人がマルチメディア・コンテンツを再生するのに専用のビューワを入れたいという要求もあるでしょう。既存のWindowsアプリケーションが使えるようになるといった応用が考えられます。
現行でもJavaによる「iアプリ」を追加できますが,ハードウエアへのアクセスなどの利用条件はすべて共通です。今回策定した仕様では,異なるルールで動くアプリケーション・ソフトウエアを共存させられます。

 一方で,通信事業者としては一定の品質や安全性は守りたい。そこで第三者がカスタマイズした部分にいくら不具合があっても,本体に影響が及ばないような仕様にしました。カスタマイズと品質・安全性を両立させる仕様といえます。

――なぜ開発パートナーはIntel社なのでしょうか。
 カスタマイズと品質・安全性に対する意識が一致したからです。Intel社にはハードウエアの知見と,オープンな環境におけるセキュリティーに関するノウハウがあります。

――端末の構成はどのようになりますか。
 仕様では,ハードウエアを司る領域制御部を定めています。この上で複数のOSが動きます。領域制御部は,出荷時に実装されている「既製領域」と,ユーザーが追加する「自由領域」からの要求を受け付け,どちらを優先すべきかを判断します。
OS以上のレイヤの実装例ですが,端末メーカーがOSの上で動くミドルウエアを追加するような形態が考えられます。このミドルウエアはアプリケーション・ソフトウエアからの要求を受け付け,領域制御部に受け渡すことになります。

――このような構成にした理由は何ですか。例えば,マルチコア型マイクロプロセサを利用するなどしてハードウエアまで別にしてしまえば,セキュリティーはより強固になりそうです。
 いくつか実装例を考えましたが,電話機としての使い勝手と,セキュリティー,実装コストのバランスを考えた結果,この形に落ち着きました。

――領域制御部の上にOSが二つあったとして,どのように切り替えるのでしょうか。
 OSを切り替えて使う「OSスイッチ」と,同時に実行させる「VMM」の2種類を考えています。NTTドコモとしては,どちらがいいということは決めません。端末メーカーやシステム・インテグレータに選んでもらうことになります。

――仕様策定のポイントはどこにありますか。
 デバイスをどのように共有するか,そして既製領域と自由領域の二つをどううまく切り替えるかです。デバイスの競合は,さまざまなケースを想定する必要があります。携帯電話機には通話機能を最優先するなど,通信事業者として譲れない部分があります。そこがパソコンの世界のマルチドメインと違う部分です。

――今後の展開はどうなりますか。
 2006年11月1日から,当社の WWWサイトで仕様を公開しました。今回報道発表したのは,まずはこうしたアイデアを世に問いたいと考えたからです。多くの方からフィードバックをもらいたいと考えています。それに応じて仕様を改訂することも考えられます。

 一方で,研究所内では試作機による検証実験を進めています。現在はARMベースのマイクロプロセサの上で,LinuxとWindowsの2種類を動かすようにしています。今のところ,切り替え機能やイベントの管理など基本的な動作確認の段階であり,携帯電話機能を除いた形で進めています。
 実用化は目指してはいますが,製品化までのスケジュールは具体的には決まっていません。