図1 MotionDSP社 CEOのSean Varah氏
図1 MotionDSP社 CEOのSean Varah氏
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 映像データ処理を手掛けるベンチャー企業の米MotionDSP, Inc. は,携帯電話機で撮影した映像データの解像度を高めるソフトウエア「Ikena system」を製品化した(ニュース・リリース)。映像のフレーム1枚について,前後5~10枚のフレームの情報を参照することで,画像の細部を再構成できる(同社による映像比較サイト)。Linuxサーバ上で動作する。

 MotionDSP社がIkena systemの売り込み先に考えているのが,消費者が撮影したデータをネットワーク経由で入手できる立場にある携帯電話事業者やデジタル・カメラ・メーカー,あるいはYouTubeに代表される動画投稿サイトである。すでに,日本のある大手家電メーカーと提携の話がまとまっているという。Ikena systemの開発の狙いについて,MotionDSP社 CEOのSean Varah氏に話を聞いた。

(聞き手=浅川 直輝)

――Ikena systemの開発を手掛けた背景は。

Varah氏 2005年ごろから,YouTubeを中心に個人ユーザーが撮影したコンテンツを投稿するサイトの人気が一気に高まったよね。今まで動画といえば,少数の専門家が加工した高画質の映像を,多数の消費者が楽しむものだった。それが,これからは多数が生成した映像を多数が楽しむ,そんな時代になると確信した。

 そのとき問題なるのが,消費者が撮影した映像の画質がおしなべて低いことだ。消費者がYouTubeに投稿する映像は,携帯電話機のカメラ機能で撮影することが多い。だけど,映像の画質は決していいとは言えない。(携帯電話機で撮影した映像を見せながら)ほら,ひどいもんだ。特に,パソコン上の大画面では見れたもんじゃない。

 これは,カメラ・モジュールの画素数を高めても解決できる問題じゃない。映像の画質は,携帯電話機のストレージの容量や信号処理能力,無線の帯域で制限されているからね。800万画素に対応した端末でも,ビデオ撮影機能はやっぱりQCIFなんだ。カメラ・モジュールの単価も縮小傾向で,ビデオに適したレンズを採用するのは難しい。今後数年は,携帯電話機で撮れるビデオの画質はそれほど高まらないんじゃないかな。だからIkena systemには需要があると踏んだんだ。

――映像の画質を高める技術は,アップコンバータを含めて競合が多い。

Varah氏 元々,動画の高画質化には20年以上の歴史があるからね。ただ,複数フレームを参照して画質を高める技術の多くは,参照するフレームが前後の2枚に留まるなど,高画質化には限界がある。5~10枚のフレームを参照する我々のアプローチの方が,携帯電話機の映像を十分な画質まで高めるのには適していると思う。

 我々の技術は,軍事向けの画像処理技術からライセンスを受けたものなんだ。元々は,赤外線暗視カメラが撮った映像を高画質化するのが目的だった。ただし,それは複数の物体が動いてる映像ではうまく動かなかったりと,課題もあった。それを今回,僕らが解決した。画面上に複数の動く物体があっても,それらの動きをピクセル単位で一つ一つ追跡して,それらのデータを基に物体の細部を再構築している。

 Ikena systemは,消費者の背後のネットワーク上にあるLinuxサーバ上で動作する。米Intel社か米ARM社のマイクロプロセサを一つ積んだサーバで,例えば20秒のQCIF映像を60秒でQVGAに変換できる。さらに,画像のブロック雑音やモスキート雑音,エイリアスも消せる。これなら,パソコン上で画面を最大化しても問題なく見られる。

――今後は,どのような技術の開発を目指すか。

Varah氏 僕らの会社のミッションは,消費者が作った映像の画質を高めることだ。例えば,デジタル・カメラで撮影したVGAの映像をHDTV化したり,HDTVビデオ・カメラで撮影した映像の画質をさらに高めたり・・・。あと,映像投稿サイトで再生する映像を,パソコン上でリアルタイムに高画質化するソフトウエアも手掛けたい。コアを四つ積んだマイクロプロセサにGPUの処理能力を足せば,十分に可能だ。Slingboxやロケーションフリーといった動画配信機器の映像も,より高画質にできるだろう。

 特に我々は,日本の顧客に期待している。今,携帯電話機のビデオ撮影機能を最も活用しているのは,米国でも欧州でもなく,日本だ。加えて日本では,携帯電話機向けコンテンツ・サービスを小規模の企業が競って提供しあう体制になっている。競争が激しい分,新しいサービスを導入しやすい。欧米では事業者がサービスを独占する傾向があって,なかなか自由にサービスを提供できないんだ。今,住友商事系列のベンチャー・キャピタル「PresidioSTX」の融資と協力を受けて,日本の顧客とも話を進めている。

――最後に。スタートアップ企業としてのMotionDSPのExit先をどう考えているか。

Varah氏 うーん,難しい質問だね。Exit先は二つある。一つは上場して会社を大きくして,いろんな企業に技術をライセンスすること。音声の分野では米Dolby Laboratories社が有名じゃない? MotionDSPは,映像におけるDolbyになりたいと思ってるんだ。

 もう一つは,M&A。最近では,上場よりもM&Aの方が収入が大きくなっている。買収元は,例えばデジタル・カメラ企業か,映像投稿サイトか,携帯電話事業者か・・・いろんな可能性がありそうだよ。