三菱ふそうトラック・バス(本社東京)は,2006年10月17日に同社製大型トラクタ「スーパーグレート」でハブが破断する事故が発生していたことを明らかにした。けが人はいなかった。鹿児島県の国道を走行していたところ,右前輪のハブが破断し,ホイールごと車軸から脱落。さらに,左前輪のハブにも亀裂があったという。


図1●車軸との関係(a)と,ホイールやブレーキドラムとの関係(b)を示した。(a)の赤い四角を拡大したのが(b)。フロントハブは,円筒部の中空部分で軸受を介して車軸(スピンドル)と,フランジ部でホイールやブレーキドラムと接続する。亀裂が発生するのは,円筒部とフランジ部の付け根で,ブレーキドラムと接する個所。この亀裂がホイールとの当たり面に向かって進み,ハブが破断する。

 今回の事故で破断したフロントハブは,同社が「F2型」と呼んでいるもの。スーパーグレートは1996年6月に発売されたモデルであり,2004年12月までに販売されたものに関しては基本的にF2型か「F0型」のハブを搭載している。F0型はF2型と同じ設計だが,搭載時期や車種で区分されているだけだ。

 そもそもF2型は,スーパーグレートの前車種「ザ・グレート」のリコール対策部品として設計されたもの。1996年6月のフルモデル・チェンジに伴い,スーパーグレートにも流用されていた。ところが,2004年秋ごろに同社がハブの安全基準を見直したところ,F2型を搭載している一部の車種で強度不足が判明。同年12月に該当車種をリコールした。このときの対策は,F2型のハブをより強度の高い「F3型」に交換するというもの。冒頭の事故車はリコール対象外だった。つまり,同じF2型搭載車種でも,仕様によって安全性に差があることから,一部の車種に関してはF3型への交換を決めた一方で,安全性に問題がないと判断した車種もあった。冒頭の事故車は後者というわけだ。


図2●(a)は「ザ・グレート」に搭載されていた「D型」,(b)はその対策部品として設計された「F0~2型」,(c)はさらにその対策部品として設計された「F3型」。2006年秋ごろまで安全としていたF0型やF2型でも一部の車種で基準を満たさないことが分かったことから,フランジが厚く,付け根の隅Rの半径が大きいF3型への交換を決めた。


表●1983年7月以降に三菱ふそうが大型車に搭載したA~F型のフロントハブを並べた。A,B型とC~F型には装着の互換性がない。F型は途中で大型車のフルモデルチェンジもあり,区分がやや複雑。F1 型を搭載した車両ではすぐに強度不足が判明し,F2 型に交換した。一方,C~E型の対策品にはF0型を使った。F0型とF2型は同じ設計だが,搭載した時期や車種で区分している。F0型やF2型も一部の車種で強度不足となったため,大幅に設計を変更したF3型との交換を2004年12月に決めた。(クリックすると拡大表示します)

 ただし,今回の事故があったからというだけで,2004年12月時点の判断が誤っていたとは,現時点では言い切れないという。同社では,同じF2型搭載車種をサンプル調査することなどで,設計に問題があったのか,ユーザーの走行や整備に問題(例えば過積載)があったのかを解明していくという。

 同社製トラクタにおけるハブ破断は,1992年に東京で起きた事故を皮切りに相次いで発生。2002年1月には横浜市を走行していたトラクタから脱落したタイヤが,付近を歩行中の母子3人を直撃し,母親が死亡するという事故が起きていた。この事故を契機に警察の捜査が進んだことから同社はフロントハブの設計ミスを認め,2004年3月に対象車種のリコールを届け出ていた。対象車種は「C型」「D型」「E型」を搭載しているトラクタで,対策部品はF0型である。F0型を搭載している車種の一部に関しても,2004年12月の時点でリコールが届け出られており,F3型への交換が進められていた。

◎参考雑誌記事
『日経ものづくり』2004年6月号緊急レポート「三菱のハブ破断事故,設計ミスはこうして起きた
『日経ものづくり』2005年1月号緊急レポート「安全なハブはどこにあるのか
◎参考Tech-On!記事
三菱ふそう,大型トラックのハブ破損でリコールへ」,2004年3月12日
三菱ふそうがリコール届出,自主回収対象外の路線バス,クレーン車も含む」,2004年3月26日
三菱ふそう,リコール問題の社内調査の進捗状況と品質に関する今後の取り組みを発表」,2004年4月23日
三菱ふそうのハブ,摩耗は「つじつま合わせ」---同社の内部技術資料より」(上述雑誌記事「三菱のハブ破断事故,設計ミスはこうして起きた」の要約),2004年5月28日
三菱ふそうがハブで新たなリコール、83年7月以降の実在登録台数の6割越す約13万台が対象」,2004年11月25日