中央が中川氏,左が木暮氏,右が原氏
中央が中川氏,左が木暮氏,右が原氏
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 ソニーは2006年10月24日,同社製のノートパソコン向けリチウムイオン2次電池で発火・異常発熱事故が起きた問題と関連して,リチウムイオン2次電池の「自主交換プログラム」(Tech-On!の関連記事)の概要を説明した。その後の質疑応答では,事故原因について米Dell社や米Apple Computer社と見解が一致しない点や,事故原因の詳細,年末商戦への影響などに関する質問が相次いだ。その詳細は以下の通り。

 なお,質疑応答におけるソニー側の回答者は,ソニー執行役副社長でセミコンダクタ&コンポーネントグループ担当の中川裕氏,同社コーポレート・エクゼクティブSVPで製品安全・品質担当の木暮誠氏,同社コーポレート・エクゼクティブSVPで広報・渉外担当の原直史氏。

――Dell社のパソコンに関しては,2005年12月に一部をリコールしていた。結果論になってしまうが,当時の判断の妥当性をどのように考えているか?

中川氏:Dell社と協議した上での決断とはいえ,今から思えば当時の技術的な解析が不十分だったことは否定できない。

――Dell社とApple Computer社のパソコンで発生した事故に関して,両社は「ソニーの2次電池に問題がある」と主張しているのに対し,ソニーは「パソコンのシステム構成も事故原因」と主張している。これら二つの主張は相容れないと思うが,あらためてソニーの見解を聞きたい。

中川氏:システム構成の影響を受けると考えている。

――セルに混入した金属微粒子とは,具体的に何か?

中川氏:銅,アルミニウム,鉄,ニッケルの可能性がある。今回はニッケルだと考えている。

――セル内の三角地帯に金属微粒子が滞留した場合に,短絡による発火や異常発熱が起きるということだが,これ以外の原因を指摘する専門家もいる。

中川氏:確かに,ほかにも発火や異常発熱の原因を挙げることはできる。ただし,今回はその可能性が最も高いと判断した。

――Howard Stringer会長と中鉢良治社長の処分はあるのか?

原氏:両者ともに事態を非常に重く受け止めている。ただし,現時点の責務は「自主交換プログラム」を迅速に進めることであり,消費者の信頼をいち早く取り戻すことである。処分は今のところ考えていない。

――(甘利明)経済産業大臣から「最近のソニーは一体どうしたことか」というコメントもあったが,「技術のソニー」の復活はあるのか?

原氏:経済産業大臣の発言に関しては,(甘利氏が)過去ソニーに所属していたこともあり,エールだと受け止めている。この発言の直前には,ソニーが早い段階で交換に踏み切ったことにも言及していただいたと聞いている。今回は生産工程で起きた問題であり,技術開発面では競争力の高い製品を市場に供給できるようになっている。

――2次電池の交換を優先すると,年末商戦に向けて,エレクトロニクス製品向けの2次電池の供給に支障が出るのではないか?

中川氏:交換対象のバッテリに関しては,パソコンメーカー各社が複数社からの調達に踏み切っている。自主交換プログラムの中でも協議しているが,ソニー以外の2次電池メーカーから調達することも提案している。従って,年末商戦向け製品への影響はないと考えている。

――2次電池のビジネス形態として,(1)パソコンメーカーからの仕様に基づく電池パックの設計・製造・販売(2)パソコンメーカーからの仕様および部品指定に基づく製造・販売(3)電池セルの単体販売---の三つがあるということだが,パソコンメーカー各社はどの形態を採用しているのか?

中川氏:パソコンメーカーの方針に関わることであり,ソニーとしては回答できない。

――電池セルの単体販売というのは,(事故発生などを考えると)リスクの高い形態ではないか?

中川氏:電池セルを単体販売する場合は,顧客に電池パックの設計能力などがあるかどうかをきちんと確かめる。

――(Dell社や米Apple Computer社向けのリチウムイオン2次電池や,自主交換プログラム交換対象のうち)ソニーが供給する分はどのくらいか?

中川氏:協議中なので回答できない。

――交換分の一部を他社に依存することで,今後の注文が他社に流れてしまうのではないか?

中川氏:可能性は十分にある。今後,どれだけ不安を払拭できるかというところにかかっている。

――自主交換プログラムの対象(2003年8月~2006年2月に製造された,容量が2.4Ahか2.6Ahのリチウムイオン2次電池)350万個のうち,事故が1件あったということだが,どのような事故だったのか?

中川氏:電池セル付近で過剰発熱が起きた。

――米Hewlett-Packard(HP)社は自主交換プログラムへの不参加を表明したが,同社製パソコンの2次電池のセルに金属微粒子は混入していないのか?

木暮氏:HP社が独自に技術調査を行い,不要と判断したようだ。

――今回の発表で,欠陥のある電池は“打ち止め”と考えてよいか?

中川氏:自主交換プログラムによって終わりにしたいと考えている。ただし,これから先,電池の事故が起きないかと言われたら回答に困る。十分やったと認識している。

――自主交換プログラムの対象外のリチウムイオン2次電池は大丈夫か?

中川氏:できるだけの調査をして,今回の結論に至った。

――東芝が機会損失額の請求を考えているようだが,これに関してソニーはどう思っているのか?

中川氏:ソニーとして「費用分担の考え方」という文書を(東芝だけでなくPCメーカー各社に)提出した。協議はまだ始まっていないので,詳細に関しては差し控えたい。

――(Dell社およびApple社で発生した事故に関して)PCメーカーとソニーで異なる見解が出ているが,それは一体どういうことか? このような状態で,新たに発表した検品体制で事故発生を防げるのか?

中川氏:ソニーの見解はそれはそれとして受け取って欲しい。事故を防ぐという点では,パソコンメーカーと電池メーカーのどちらかだけが対策するのではなく,双方が歩み寄って安全上のマージンを高めるという姿勢が求められるのではないか。

――金属微粒子の混入を完全に防ぐことはできないのか?

中川氏:ゼロを保証することはできない。もちろん,ゼロにできるのであれば,ゼロであるべきとは思う。実用上,安全に使える電池を目指していく。

――PCメーカーから指定される仕様には,具体的にはどのようなものがあるのか?

中川氏:PCメーカーによってさまざまだが,1例を挙げるとすれば,制御ICのメーカーや型番まで指定されることもある。

――(充電システムや消費電力,温度といった)使用環境に関して,ソニーは詳細を把握できるのか?

中川氏:原則的にはどのようなPCとの組み合わせで使われるのかということを考慮した上で電池パックを出荷している。とはいえ,新製品の場合は機密情報の取り扱いという観点から十分な情報が得られないこともある。例えば,電池パックの温度分布が,事前情報と実際とで全く違うことがあった。PCメーカーに比べれば,持っている情報は少ないが,それでも(電池パックの設計・製造に)必要十分な情報は得られていると認識している。

――ソニーの「技術力」や「ものづくり力」が落ちているという指摘があるが,ソニーではどのように考えているのか。

中川氏:そのようなことが言われている状況は承知しているが,さまざまな事業を営んでいく上で必ずチャレンジしなければならない場面に遭遇する。ソニー全体の力が落ちているとは思っていない。

――ソニーの「費用分担の考え方」を具体的に教えて欲しい。

中川氏:これに関しては回答を差し控えたい。

――経営陣の進退問題とは別に,減棒などの社内処分に関しては何か決まっているのか? 特に中川氏は,当時,電池製造子会社の最高責任者だった。

原氏:社内処分に関しては,現時点では検討されていない。

中川氏:自身の在任期間中に設計・生産開始された2次電池が回収される事態に至ったことを真摯に受け止めている。PCのエンドユーザーに対しては,自主交換プログラムを円滑に進め,不安を払拭することが当面の責任だと思っている。

――「ソニーブランド」に影響が出たと思うが,年末商戦に向けてテレビやデジタルカメラの売れ行きに影響があるのではないか?

原氏:影響がないように頑張る。

──「バイオ」でもリチウムイオン2次電池を自主交換するということだが,PC側のシステム構成に変更はないのか。

原氏:ない。

──では,なぜ自主交換を決定したのか。システム構成の安全性に自信があるのなら,ソニーのバイオは「たとえ電池セルに微小な金属粉が混入しても,システム構成で万全な対策を施しているから大丈夫だ」と訴えた方が,むしろユーザーに安心感を与えることになるのではないか。現に米Hewlett-Packard(HP)社は,技術的な検証を経た上で,自主交換プログラムは必要ないと判断している。

原氏:(発火事故が発覚後に)バイオのユーザーからリチウムイオン2次電池に関するさまざまな問い合わせがあった。これを受け,バイオの事業部が(発火事故への不安を)払拭するためには,自主交換プログラムを実行した方が良いだろうと判断した。

──電池セルに起因して発火に至る確率が「350万分の1」というのは,工業製品としてはかなり安全性が高い方だと言える。その一方で,発火事故がいったん発生すると,家屋が損傷したり,人体に危害を加えたりといった惨事を招く可能性は払拭できない。こうした故障率と安全性との難しいバランスを製造業は取らなければならない。ソニーとしてはこのバランスをどう考えるか。

原氏:自主交換プログラムという対策を打ち出すきっかけは,Lenovo社製PCの発火事故だった。この事故は6本あるセルのうち,4本が紛失してしまっている。発火後に空港で処分されてしまい,我々が回収に向かったときには2本しか残っていなかった。これでは数が少なくて原因は特定できない。原因が特定できないときは,通常なら回収しない。しかし,米Dell社や米Apple Computer社向けのリチウムイオン2次電池を回収をしている中で,ソニー製の製品でもう一つの発火事故が起きた。これでは(市場の)不安が非常に高まってしまう。そこでppmの問題を超えて,自主交換に踏み切るべきだと当社の経営陣が判断した。

──350万分の1という確率をさらに下げると確かに安全性が高まるが,利益率は下がってしまうのではないか。

原氏:それには二つの考え方がある。一つは金属粉を減らすことだが,金属粉を100%なくすことはできない。機械が金属でできている以上,金属粉は排出されるし,空気中にも飛んでいるからだ。これに対し,例えば超高精度なクリーンルームを建設して対策すれば,経済合理性が合わなくなる。ここに,経済合理性を満たしつつ,安全性のマージンを高めるというもう一つの考え方が出てくる。つまり,金属粉の混入を減らしつつ,安全性のマージンを上げる努力が必要だ。こうした中で最適解をきちんと見つけ,当社は電池ビジネスを再生していく。

──その安全性の確率についての指標(最適解)を,今後ソニーは公表するのか。

原氏:それは企業秘密だから言えない。ただ検査工程をきっちりやっていく(ことで安全性を高めていく)。

──発火事故を起こしたLenovo社製PCのリチウムイオン2次電池は,Dell社やApple Computer社と同じロットで生産されたものか。

原氏:同じロットではない。だが,A(アンペア)数も構造も同じで,かつ同じような生産ラインで造られたものだ。そのため,「疑わしきも罰する」という判断をして自主交換に踏み切った。通常ならこうした判断をすることはない。しかし,社会的な不安がここまで高まっていることから,通常の安全マージンの考え方を採らずに,当社は経営判断として自主交換プログラムを決定した。

──Lenovo社製PCのリチウムイオン2次電池の原因は本当に特定できないのか。

原氏:原因の特定は難しいが,電池セルには起因しない(注:つまり,システム構成に起因する)と考えている。通常は,電池セルに起因する事故が1件だけしか発生していないという場合には,自主回収にはなかなか踏み切れない。例えば,何かに激しくぶつけ,電池セルが曲がっても発火事故が起き得るし,どういった条件で使われていたかも我々には分からない。同じ原因で複数の同一事象が起きていなければ,原因を特定することができない。

──自動車業界ではリコールが起きた際に責任を負うのは自動車メーカーだが,PC業界では部品メーカーがそれを負うのか。

原氏:今回は2回の発火事故を起こしたため,Dell社から当社の名前を公表すると通告を受け,当社はそれに同意した。こうした経緯からApple Computer社にも同じ対応をとった。一部で誤解されているようだが,基本的には製品に問題が起きたときに,部品メーカーの名前を発表することはない。それが業界のルールであり,当社でも他の家電製品で部品メーカーの名前を公表したりしない。今回は特殊なケースだ。

──ソニーはそれに納得しているのか。

原氏:納得した。

──ユーザーに対して安全な使い方を告知する方法は考えないのか。

原氏:既に使用説明書に誤った使い方を記入している。ユーザーの方にはそれを見て(説明書にあるような誤った使い方をしないよう,適切に)使用していただきたい。