• QWERTY型のキーボードを備え,電子メールやインスタント・メッセージを容易に楽しめるとうたう。

 「部品構成は,無線LAN付きの携帯型情報端末(PDA)そのものだ」---。ソニーは,既存のPDAとは大きく異なるコンセプトを持たせた新型の携帯端末「mylo personal communicator」(以下,mylo)を,2006年9月から北米市場で出荷を始めた。そのmyloを入手し,部品メーカーの技術者の協力を得て分解した(Tech-On!の関連記事)。

 ソニーはmyloを,「コミュニケーションを図るためのツール」(同社)と位置付ける。無線LANへの接続を前提とし,IP電話やインスタント・メッセージング,WWWブラウザーの機能を主軸に置いている。ただしmyloを分解してそのハードウエア構成をみると,PDAと大差がないという。つまりmyloはPDAと同等のハードウエア・プラットフォームに,IP電話用ソフトウエア「Skype」やWWWブラウザー「Opera」などのアプリケーション・ソフトウエアを取り込み新たな携帯端末のコンセプトの具現化を試みた格好である。マイクロコントローラには米Freescale Semiconductor, Inc.の「DragonBall MX2」を搭載し,OSにはLinuxを採用する。

  • 筐体を開けて,液晶パネル/キーボード側(奥)と,メイン・ボード側(手前)に分割した様子。

 myloが狙う市場は,競合となる製品の存在が少なくない。携帯型ゲーム機や携帯型音楽プレーヤなどで,コミュニケーション機能を重視した端末が続々と登場している。これらの端末に対してmyloは,一つの課題を抱えている。競合製品の価格が軒並み200米ドル以下なのに対し,myloは350米ドルと高い値付けを余儀なくされている。myloはコンテンツ販売を通したライセンス収入を得られないため,端末の販売だけで収益を上げる必要があるからだ(日経エレクトロニクスの関連記事「ソニー,携帯端末を再投入,コミュニケーションを重視」)

 とはいえmyloは今後,価格の抑制を図ってユーザー層を拡大していく可能性がある。myloの基板を見た技術者は,今後の低価格化を予見する。今回分解したmyloは第1世代品ということもあり,設計がこなれていないというのだ。「設計期間の短縮を優先したためか,コスト削減の余地があちこちに残されている」(部品メーカーの技術者)。ソニーがmyloで打ち出した新たな製品コンセプトが市場に受け入れられるかどうかを見極めるには,製品価格の今後の推移についても注視する必要があるだろう。


メイン・ボードの表面を見ると,マイクロコントローラ(中央)や,無線LANモジュール(右側),電源回路(左側の中下部)といった主要部品が目に飛び込んでくる。これらのLSIやモジュールは,いずれも汎用品(ASSPなど)で構成している。かつてソニーは,CLIE向けにマイクロコントローラ「Handheld Engine」を内製して部品点数の削減につなげてきた。しかしこの第1世代品に集積度の高い専用LSIを適用するのは難しい。電源管理ICの周辺には,タンタル・コンデンサを用いた平滑回路が設けられている。携帯電話機の電源回路では最近,高いスイッチング周波数とセラミック・コンデンサを組み合わせて平滑回路を構成するケースが増えつつある。部品コストを低減できるからである。「しかし今回のmyloでは,既存のこなれた設計を活用したようだ」(分解を担当した技術者)。


メイン・ボードの裏側にはNANDフラッシュ・メモリのほか,液晶パネル用の基板と接続するコネクタが設けてある。高速のデータ伝送に備え,その周辺には多数のEMI対策用フィルタを実装している。「シミュレーション技術を活用して基板の設計品質を改善していけば,本来は不要にできる可能性がある」(技術者)という。ただし設計品質の改善は開発期間が長引くため,今回は対策部品による対処を選択したようだ。


EMI対策部品は,液晶パネル用の基板の裏側にも多数見られる。例えばメイン・ボードと接続するフレキシブル基板の表面に黒い塗料が塗布してあるほか,フレキシブル基板のコネクタ周辺にフィルタが実装してある。液晶パネルに接続するフレキシブル基板には,チップ部品を直接実装している。


液晶パネル用基板を筐体から取り外した様子である。液晶パネルは2.4型で画素数はQVGA相当。6万5536色のカラー表示に対応する。

<訂正>
記事掲載当初,メイン・ボードの表側の写真中の部品説明において,「タンタル・コンデンサ」を実際とは異なる部品として指し示していました。現状ではこの説明を図版から取り除いています。お詫びして訂正いたします。