プレイステーション3(PS3)の「価格改定」「HDMI標準搭載」が飛び出した東京ゲームショウのトーク・セッション
プレイステーション3(PS3)の「価格改定」「HDMI標準搭載」が飛び出した東京ゲームショウのトーク・セッション
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 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE) 社長 兼 グループCEOの久多良木健氏が,プレイステーション3(PS3)の新価格を明らかにした。発売前の価格改定は極めて異例だ。

 今回明らかにした20GバイトHDD搭載機の新価格は税込みで4万9980円。以前発表していた価格(税込みで6万2790円)から1万2810円の大幅値下げである。SCEは,PS3向けのコンテンツ開発を促すために「2007年3月末までに600万台を出荷すること」を目標として掲げている。全出荷台数のうち,国内出荷分は200万台程度になるだろう。このうち20Gバイト品の占める比率は分からないが,同社は「60Gバイト品のほうが,引きが強い」(久多良木氏)とみており値下げによる痛みは少し和らぐのかもしれない。それでも,2006年度(2007年3月期)だけで数十億円以上の収入減となるのは間違いない。「600万台」の公約を死守するためとはいえ,1万2000円を超える値下げは思い切った判断だ。

 久多良木氏は新価格の発表と共に,当初の価格決定の経緯を明らかにした。それによると「まず米国の500米ドルが決まった。次に欧州の490ユーロ。為替レートに従うと,日本での発売価格は約6万円ということになった」と解説した。しかし,日本では「価格が高い」という声が一向に収まらず,今回の価格改定に至ったのだという。

 ここからは推測になるが,今回の価格改定は任天堂の「Wii」を相当意識したはずだ。Wiiは,携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の成功を受け,ゲームの新潮流を作り出そうという商品。発売時期はPS3とほぼ同じで,価格は2万5000円と大幅に安い。詳細な仕様はほとんど明かしておらず,プロセサ性能をはじめとするハードウエア仕様に注目が集まるPS3やXboxとは一線を画している。

 SCE,任天堂の両陣営とも「PS3とWiiは目指す方向が違う。共存共栄できる」としている。ただしWiiが一方的に売れて「今後のゲーム機にそれほど高い性能は必要ない」という風潮が強くなれば,PS3に対するゲーム開発者の熱は一気に冷める可能性もある。結果として「ネットワークの上に大量のPS3をつないだ巨大なコンピュータを作る」いう久多良木氏の目論見は大幅に狂うことになる。今回の減収分の数百億円は,そのような最悪のシナリオを防ぐための先行投資ということになるだろう。

 もう一つのサプライズとなった「HDMI」の全機種標準装備も,相当に悩んだ節がある。9月6日に開催した量産延期の会見でも,記者に「HDMIは必要だと思うか」と逆に問いかけたほどである。

 HDMIの技術的優位と将来性について久多良木氏は信じて疑っていない。同氏が「オーディオの神様」といって尊敬するソニーのオーディオ技術者である金井隆氏も「ドルビーのTrueHDなどの高精細音声が再生できるHDMIを熱望している」というエピソードを紹介しながら,ユーザーには将来性を強くアピールできる機能と踏んでいる。

 ところが,「機能は落としてもいいから安い方がいい」というユーザーがいるのも事実。9月6日の会見では「HDMIは時代の流れ」としながらも,「安い方がいい」ユーザーの多寡を量りかねているようにみえた。しかし,PS3がHDMIを装備すると明らかにして以来,薄型テレビが続々とHDMIを装備し出した。少なくとも「メーカーの流れは変わった。これならユーザーの意識も変わる」と決断して標準装備に踏み切ったのだろう。