開発したレーザ
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7つのレーザ素子が発光している様子
7つのレーザ素子が発光している様子
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レーザ素子の構造
レーザ素子の構造
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 「Siフォトニクスの実現に向けたハードルを今回の成果で超えた」(米Intel Corp.)――。米Intel Corp.と米University of California, Santa Barbara校(UCSB)の研究グループらは,Siと化合物半導体を一体化した電流励起型レーザを開発した(日本語の発表資料詳細はこちら)。化合物半導体はInPで活性層(説明資料によるとAlGaInAs)を挟み込む構造とした。この化合物半導体で発生させた光を,Si製光導波路からなる共振器で共振させてレーザ発振させている。今回,同素子をSi基板に7個集積して連続発振させることに成功した。「開発したレーザを集積する光通信モジュールを,6~7年後をメドに実現したい」(Intel社 Photonics Technology Lab DirectorのMario Paniccia氏)とする。

 今回Intel社らが開発した電流励起型のレーザ素子は,光によるデータ伝送に必要な発光,伝送,変調,受光といった機能をそれぞれ備える光素子をSi基板に集積する「Siフォトニクス」に不可欠な素子である。コンピュータやデータ・センターでの筐体間やボード間,チップ間の光による大容量データ伝送での利用を想定する。例えば,開発したレーザ素子をSiチップ上に25個並べ,それぞれを光変調器によって40Gビット/秒でデータ伝送すれば,1チップ当たり1Tビット/秒が可能になる。同社はまず6~7年以内をメドに,今回開発したレーザを含む複数種のSi製の光素子をモジュール化した後は,将来的にはロジックLSIとSi製の光素子を同一チップに集積するモノリシック型デバイスの開発を狙う意向である。

 Intel社はSiフォトニクスを「今後10年の技術の柱の一つ」(Tech On!関連記事1)と位置付け,Siによる高速変調器や光励起型レーザなどをここ2~3年で立て続けに発表してきた(Tech On!関連記事2Tech On!関連記事3)。ところが,Siが電流励起によって発光しにくい材料であることなどから,発光部を担うSiベースの電流励起型レーザはこれまで実現できていなかった。今回同社は,光の発生と増幅は発光効率の高い化合物半導体に担わせ,光の多重反射による共振をSi製の光導波路に担わせるという「折衷構造」で,こうした課題のクリアを図った。

特徴は主に二つ


 今回のレーザの特徴は,大きく二つある。第一に,今回のレーザを利用することで,従来方法よりもSi基板に集積しやすいと説明する。例えば従来法には,レーザ素子をSi基板の外側に実装する方法やレーザ素子をSi基板上に実装する方法がある。いずれもレーザから出射した光をSi基板上のSi製光導波路に導くために,光軸合わせが必要になる。今回は,化合物半導体による発光層とSi導光路を,ウエーハ・レベルやダイ・レベルで接合してレーザを形成できる。このため素子ではそうした位置合わせの必要がないという。第2に,波長多重による光通信に必要な,異なる波長で発振する複数のレーザを集積しやすい。Si製光導波路の寸法を変えることで発振波長を比較的自由に変えられるためである。今回のレーザでは1577nmで発振させている。

 今回のレーザ素子は,Si基板にエッチングを施して形成したSi製光導波路と,AlGaInAs量子井戸層による発光層や増幅層を,酸素プラズマガスで形成した酸化膜を接着剤として,300℃,1MPaの条件下で接合する。レーザ発振のしきい値電流は15℃で駆動させた場合に65mA。同温度で駆動させた場合の光出力は200mA駆動時で約1.8mWである。