携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)制度の導入,新規事業者の参入でモバイル産業はどう変わるのか・・・。東京国際デジタル会議2日目の2006年9月8日,「モバイル大競争の行方」と題したパネル・ディスカッションでは,新しい競争フェーズを迎えるNTTドコモ,KDDI,イー・モバイル,ウィルコムのトップが,それぞれの今後の戦略を披露した。

 「携帯電話によるサイバー社会とリアル社会の結合」を強調したのが,NTTドコモ 取締役常務執行役員プロダクト&サービス本部長の辻村清行氏だ。「非接触ICカード機能を使った「モバイルSuica」なら,何度でも予約内容を変更できて便利」など,自らの体験を交えながら生活へのさらなる浸透を図っていきたいとした。非接触ICカードのリーダー/ライターは,今後コンビニエンス・ストアやタクシーにも入り,より使いやすくなるという。

「今後重要になるのは音楽,通信と放送の融合,Web2.0の3点」としたのは,KDDI執行役員 コンテンツ・メディア事業本部長の高橋誠氏である。携帯電話機による楽曲ダウンロードの浸透度やワンセグの利用調査,Google社との検索サービス連携により公式サイトや一般サイトなどへのアクセスが増えているといったデータを示しながら,携帯電話の利用から購買活動につながるトランザクションを増やしていきたいとした。

 新規参入のイー・モバイル 代表取締役社長兼COOの種野晴夫氏は「決して料金が安いだけの事業者ではない」との基本姿勢を示した上で,端末イメージを明らかにした。同氏によると「おサイフケータイのような高機能端末はできない。機能としてはシンプルだが,大容量の高速データ伝送ができる」というのが基本コンセプトだという。海外メーカーを積極的に採用し「グローバル標準を日本化する戦略だ」とした。

 「小さなニーズを積み上げていく」というのが,ウィルコム 執行役員経営企画本部長の喜久川政樹氏だ。それを実現するのが「W-SIM」と呼ぶ,PHS機能を搭載した小型モジュールである。このモジュールを活用した端末を開発することで,出荷台数が数万台しかないカスタム仕様の端末が開発しやすくなるという。W-SIMの採用例として,バンダイの子供向け端末や証券会社の株取引用の端末を挙げた。同社のホームページにはSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)経由のアクセスが多いことを紹介,口コミの重要性を強調した。

 今回,ボーダフォンを買収したソフトバンクからの参加はなかった。ソフトバンクの参入をどうみるかという問いに対して,KDDIの高橋氏はソフトバンクのCMのフレーズを借りて「想定外の動きをするのはCMだけにしてほしい」とすれば,イー・モバイルの種野氏は「別業界からの参入で,思いつかないようなものを出すのではないか」と,各社ともソフトバンクの動静には注目している様子。NTTドコモの辻村氏は「携帯電話はつながることが大事。ソフトバンクは第3世代方式の品質改善で苦労するだろう」と冷静な見方を示した。

 MNPによる影響について,KDDIの高橋氏は「MNPを機にほかの事業者をとりあえず試してみよう,ということで移ってくるユーザーを引き止めたい」と,MNPをシェア増加のきっかけにしたいという考えを改めて明確にした。同社は「シェア30%,3000万加入」を当面の目標として掲げている。NTTドコモの辻村氏は「MNPは今後ずっと続いていく制度」とMNPは一過性のものではないという認識を示した上で,通信可能エリアの拡大,サービス内容の充実,魅力ある端末の開発などに継続的に取り組むという。