日立による指静脈認証技術の歴史
日立による指静脈認証技術の歴史
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Anoto社と共同開発したデジタル研究ノート
Anoto社と共同開発したデジタル研究ノート
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AV機器にもグループの総合力を結集して付加価値創出を図る
AV機器にもグループの総合力を結集して付加価値創出を図る
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 「現在の知的創造社会の主役は知,すなわち人である」。日立製作所 執行役副社長の中村道治氏は2006年9月7日に始まった「2006東京国際デジタル会議」の基調講演で,個人の知識や知恵の連携と融合させて革新的な価値を生み出していきたい,こうした人材をどう育成するかが同社の課題だと語った。

 中村氏は,日立製作所が取り組んでいる「知の連携・融合」の実例を示した。例えば,ATM(現金自動預け払い機)などで使われる指静脈認証技術があるという。

 日立製作所による指静脈認証技術の開発は,中村氏が同社の中央研究所の所長を務めていた1997年までさかのぼる。中村氏の部屋にライフサイエンスの研究員が「赤外線は人間の皮膚を通過する。血液中のヘモグロビンの種類によって吸収係数が違うので,血流の情報が得られる。これを研究させてくれ」といって飛び込んできたことが発端だった。その研究員が画像認識の研究をしている別の部門の技術者と話をしたところ,個人認証に使えそうだということになり,企業のドア入退出システムでの実用化を経て2003年にATMの認証技術として大量採用が決まった。現在,さまざまな分野に展開中だ。

 中村氏は「技術があったことは重要だが,関係者だけでなくユーザーも知識と知恵を共有して実用化に至った好例ではないか」と紹介した。「今でもそのときの研究者の意気込みを忘れない」と,当事者の熱意も重要だったとこの事例を総括した。

 このほか,外部機関との連携の例として産業総合研究所と共同開発したエレベータ内異常行動監視システム,海外企業との連携例ではスウェーデンAnoto社との研究ノートの電子化などを挙げた。民生機器でも,AV機器の開発に情報システム部門の技術を投入しており,録画映像の動きと音声の変化量を解析し重要な場面だけを抜き出して編集する「いいとこ観」機能など製品への実装例を紹介した。

 新しい知はどう獲得するかという課題について,日立製作所は大学や国立研究所との関係が重要という考えを明確にした。こうした研究機関との連携では,特定の技術シーズをもらうという一方向の関係ではなく,人材や技術など多面的に交流する「面での連携」が重要とする。企業の中央研究所の役割は,自らの技術を磨くと共にこうした外部機関とつき合うことができる人材を育てることだとした。