2006年9月6日のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)による会見には,同社 代表取締役社長兼グループCEOの久多良木健氏が出席し,「プレイステーション3(PS3)」の初期出荷の数量確保ができず,欧州での発売を延期することになった経緯を自ら語った。

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 会見のやりとりは多岐に渡ったが,ここでは
(1)原因
(2)最新の出荷スケジュール
(3)ほかの部材の状況
(4)ソニー・グループの技術力
 に整理して報告する。

複数の製造装置の「最適値」を模索

 まず,今回の原因はBlu-ray Disc対応の光ヘッド用半導体レーザである。当初は全数をソニー・グループから調達しようと考え,ソニー白石セミコンダクタが製造に取り組んできた。しかし,2006年7月になってPS3が必要とする数量が確保できないことが判明したという。試作や少量生産では品質に問題なかったが,PS3を量産するにあたって複数の製造装置を使う際に問題が生じた。

 ソニーの青紫色半導体レーザはこれまでも,Blu-ray Disc対応のAV機器などへの搭載実績がある。ただし,これは同一の製造装置で一気に生産したものだった。それに対して,PS3は出荷数量が2~3ケタ多く,複数の製造装置を使って並行処理することになる。この際,装置ごとの成長条件がばらついてしまい,それぞれの最適値をみつけるのに手間取ってしまった。

 今回の会見には半導体の専門家は同席しなかったが,久多良木氏は「不純物の混入を減らし,装置ごとの『製造レシピ』の最適値を探すのに苦労した」とする。さらに,半導体レーザの基板に使う化合物半導体の品質もロットによってばらついていたことも影響した。

 数量確保のためにはほかのメーカーの半導体レーザを利用することも考えたが,他社は「量産レベルでは作れていない」(久多良木氏)ということで採用するには至らなかった。

 欧州における出荷遅れという結果については無念さをにじませた同氏だが,「2006年末までに100万個が生産できるようになれば,Blu-ray Discのアプリケーションはものすごく増える」「青紫色レーザの競争力は圧倒的になるはず」と前向きな姿勢を見せた。

出荷は米国を最優先

 PS3の量産開始時期は,当初の9月上旬から9月下旬にずれ込んだ。当初の月産台数は100万台を予定していたため,11月時点で用意できる台数が100万台不足することになる。

 ここで最優先したのが米国向けである。米国では,11月第4木曜日の祝日「Thanksgiving Day」を境にクリスマス商戦に突入する。この商機を逃さないようにするため,初日40万台,年内100万台を確保することにした。9月下旬の量産開始から順次船便で送り出し,最後は航空便も駆使するという。

 当初の製造拠点は,ソニーイーエムシーエスの木更津テックと中国のEMS(電子機器の製造・設計受託サービス)企業であるため,日本への輸送リードタイムは米国や欧州に比べて短い。日本向けの出荷は,米国分を確保した後でも対応可能というわけだ。ただし,初日の出荷台数は10万台で「我々の期待をはるかに下回る」(久多良木氏)。ただし,順次増やしていき,2006年内に100~120万台の販売を目指す。

 その結果,割を食ったのが欧州向けである。欧州向けには船便で2カ月程度かかるため,1月上旬からの工場出荷分が3月上旬に欧州に届くことになる。欧州向けには全量航空便という手段も考えたが,本体の重さが5kgあるPS3は輸送経費がかさむ上,そもそも100万台規模の量を一気に送ることができる手段が確保できないことが分かったという。ただし,初日には,他地区をしのぐ100万台を確保するとした。3月末までに150万台を販売する。

 欧州での遅れがあるものの,2007年3月までに予定していた600万台の販売目標に変更はないという。当初内部的には750万台を用意することにしていたことに加え,2007年初頭からは生産台数を月20万台だけ上乗せして120万台体制にすることで,当初計画の実現を図る。

Cellはあきれるくらいの優等生

 ほかの部品については,順調に確保できていることを強調した。一部で出荷遅れとのうわさが出ているCellについては「歩留まりが予想をはるかに超える優等生」(久多良木氏)と評した。2005年末から生産を始めており,現時点で300万個以上が倉庫にあるとした。

 グラフィックス処理用LSI「RSX」,90nmプロセスで製造するサウスブリッジIC,Blu-rayのためのRFコントローラIC「サバンナ」も順調で,年内数百万個を確保できる見通しだと周囲の不安を一掃した。

技術力低下との指摘には「結果を出さないと」

 Liイオン電池の回収問題が明らかになった直後ということもあり,会見では「ソニー・グループの技術力が低下している象徴なのではないか」という質問が相次いだ。久多良木氏は,そもそもイノベーション(技術革新)にはリスクがつきものであり,今回の青紫色半導体レーザのような未開拓領域の技術開発が滞ったことを技術力の低下とされることは心外だとしつつも,「『やはり(低下した)ね』ではなく,『何とか乗り切ったね』と言われるためには,(今回掲げた目標を達成するという)結果を出すしかない」と現場を鼓舞した。

【訂正】記事掲載当初,PS3の生産拠点の一つを「SCEの木更津工場」としていましたが,正しくは現在の記事のとおり「ソニーイーエムシーエスの木更津テック」です。お詫びして訂正いたします。