登場は今年秋か?

 同研究会では,カプセル内視鏡を個人輸入し,医師による自主研究の形で,カプセル内視鏡検査を実施している。患者が負担するのは基本診察料のみだ。少しずつ参加施設が増加し,現在は全国約15施設で検査が行われている。今年4月時点で,日本国内での検査施行件数も900件近くに上り,徐々に普及しつつあると言えよう。

 同研究会では,対象患者や検査を行うべきではない患者といった,独自の使用ガイドラインを定めている。また,従来の内視鏡検査では,チューブの先端の穴から空気を入れて,消化管を引き伸ばし膨らませた状態で内部を観察していた。しかし,カプセル内視鏡は,自然な状態での消化管内の画像を撮る。つまり,従来の内視鏡画像とは,得られる画像が大きく異なるわけだ。内視鏡先端を自在に操作して元の場所に戻ったり画面を拡大するといったこともできない。

 このため同研究会では,小腸でよくみられる病気ごとに画像アトラス(参照用画像)を作成するなど,カプセル内視鏡独自の画像をどう診断するか,医師の診断能の向上を目指し,積極的な活動を行っている。

 一方,国産のカプセル内視鏡開発を目指す動きも出てきた。2004年11月に日本国内の消化器内視鏡市場の約7割を握るオリンパスメディカルシステムズが周辺技術の開発に成功したと発表,満を持して開発に乗り出した。

 このほか,日本ではアールエフ,韓国でも複数の企業が開発に取り組んでいる。ただ,どちらも「今年中に臨床試験開始予定」などと華々しく報道された後,進捗状況について全く公表されないため,どの程度開発が進んでいるか,実態は不明だ。

 オリンパスメディカルシステムズのカプセル内視鏡は,慶応義塾大学病院と昭和大学横浜市北部病院で,2004年秋から2006年春にかけて臨床試験が行われ,現在承認申請の準備中。ギブンイメージング社と合わせて2社のカプセル内視鏡が認可待ちとなる日も近いことから,関係者の間では2006年中には認可が下りるのではないかと期待する声が高まっている。

 なお2005年10月から,オリンパスメディカルシステムズのカプセル内視鏡は欧州33カ国で発売されている。欧州では臨床試験が不要で医療用具としての申請のみのため,日本より早い発売となった。国によって医療制度が異なるため,価格は公表されていない。

 臨床試験に携わった慶応義塾大学 内視鏡センターの緒方晴彦氏は,2006年5月の日本消化器内視鏡学会で,試験の進捗状況を報告した。それによれば,試験の対象患者は,あらかじめ他の検査法で小腸に狭窄や重度の癒着が無いことが確認され,小腸の病気が疑われた37人。何らかの異常所見が見つかった確率は,小腸二重造影が38%であったのに対し,カプセル内視鏡では81%に上った。

見かけはそっくり

 では,この2社のカプセル内視鏡,どういった違いがあるのだろうか。

 実は,両社のカプセル内視鏡,外形はきわめてよく似ている(写真1)。直径11mm,長さ26mmの錠剤型である点はほぼ同じ(連載第1回参照)。これは,自然な状態での小腸の内径を考えると,ちょうどこの程度の大きさになるのは無理のないことだ。

 カプセル内視鏡の詳しい仕様について,オリンパスメディカルシステムズは公開していないが,先端に半球形の透明カバーがあり,レンズや照明用のLED(発光ダイオード)が6個,ボタン電池2個などが内蔵されている点もギブンイメージング社の製品と似ている。

 オリンパスメディカルシステムズは開発発表当初,磁気を利用してカプセル内視鏡の位置を自在にコントロールする「全方位誘導システム」や,撮像素子などに必要なエネルギーを体外から電磁誘導によって供給する「無線給電システム」を売りにしていた。

 だが,現在臨床試験を行っているカプセル内視鏡は,内視鏡本体を飲み込んだ後,消化管の蠕動(ぜんどう)運動に乗って,自動的に1秒2枚画像を撮影し,被験者の腹部に貼ったアンテナを通してデータを体外の小型記録装置に保存するというもの。基本的な仕組みもギブンイメージング社のものと大差ない。ただし,固体撮像素子は異なる。

 ギブンイメージング社のカプセル内視鏡は,駆動時間を長く,かつ安価にするためにCMOSセンサを用いている。一方,オリンパスメディカルシステムズは,CCD素子を採用した。恐らく駆動時間を犠牲にしても画質を向上したいという方針に従ったものと考えられる。

 この影響か,オリンパスメディカルシステムズのカプセル内視鏡検査の際には,内視鏡本体を飲み込んで1時間後に,リアルタイムビューワでカプセル内視鏡の位置を確認,胃まで到達していなかった場合には,消化管運動の調整薬を筋肉注射する必要がある。あまり進行がゆっくりだと,肝心な部分で電池切れを起こし,画像が得られない心配があるからだろう。

 一方のギブンイメージング社は,画質よりも「見落としを少なくすること」を第一の目標に製品の改良を続けている。そのために同社が取ろうとしている方策は2つある。まず,撮影間隔を現在の0.5秒に1枚よりさらに短くすること。そしてもう1つは駆動時間を長くすることだ。駆動時間が短いと,十二指腸や,小腸の途中で,画像が切れてしまう可能性があるためだ。

 さらに最近,カプセル内視鏡は小腸疾患に光を当てるだけにとどまらず,新たな方向に踏み出そうとしている。それは,従来の内視鏡が得意としていたはずの分野,食道や大腸といった他の臓器への進出だ。

 次回は,各臓器ごとに適したカプセル内視鏡の開発を目指す動きについて紹介する。

    連載の目次
  1. 【連載・目次】カプセル内視鏡,知られざる開発競争
  2. 【第1回・登場の経緯】カプセル内視鏡,軍事技術との意外なつながり
  3. 【第2回・日本の現状】国内でもカプセル内視鏡の利用開始は目前?
  4. 【第3回・最新の動向】各臓器専用のカプセル内視鏡の開発へ

【訂正】
記事公開当初,オリンパスメディカルシステムズのカプセル内視鏡について「今年5月に承認申請を行った」と記述していましたが,実際には承認申請の準備中でした。読者の皆様,関係者の皆様にお詫びして訂正したします。