ソニーが開発した10Gビット/秒のVCSEL(面発光レーザ)素子
ソニーが開発した10Gビット/秒のVCSEL(面発光レーザ)素子
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10Gビット/秒で動作させた時のアイ・パターン
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試作した10Gビット/秒×4チャネルの光導波路モジュール
試作した10Gビット/秒×4チャネルの光導波路モジュール
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 ソニーは,同社の各種デジタル家電やゲーム機の機器間および機器内インタフェース向けに光配線技術を開発中であることを明らかにした。2006年8月29日から滋賀県草津市で開かれている2006年秋季 第67回 応用物理学会学術講演会(2006年8月29日~9月1日)で発表した(講演番号:31p-ZT-4)。

同社はこの光配線技術を,米IBM Corp.や東芝と共同開発したマイクロプロセサ「Cell」を搭載する各種デジタル家電の機器内や機器間をつなぐインタフェースとして用いることを検討しているという。「Cellのデータ入出力の帯域は数十Gビット/秒。この帯域を電気信号で伝送しようとすると,電磁雑音の問題のほかに,配線がかさばってしまう問題がでてきてしまう。家電は見栄えも重要。光なら,見た目でもスッキリした配線にできる」(ソニー マテリアル研究所 光エレクトロニクス研究部 第1グループ 統括課長の荒木田孝博氏)。

信頼性は実用化レベルに

 ソニーが今回の応物学会で発表したのは,(1)波長850nmで発光し,伝送速度が10Gビット/秒のVCSEL(面発光レーザ),(2)そのVCSELを使い1チャネル当たり10Gビット/秒の伝送路を4チャネル備える光導波路モジュール,の二つである。

VCSELはAlGaAs系材料で製造した。素子抵抗や寄生抵抗を低減するなどして,変調特性を向上させた。10Gビット/秒での動作では,既存の10GビットEthernetの規格である「10GBASE-SR」との比較で15%以上のアイ・パターンの開口率を確保できたという。

 今回のVCSELのポイントは,高温,高湿度中での高い信頼性を実現できた点。温度+85℃,10mAで5000時間連続駆動させても光出力に大きな変化はなかった。また,温度+85℃,湿度85%の環境下でベアチップを2000時間保管した後でも光出力変化は±0.3dB以下に収まった。「もっと現実的な条件,例えば+60℃の環境下なら10万時間の利用に耐えることを確認済み」(荒木田氏)。VCSELによくある「頓死」と呼ぶ突然の動作停止の問題も実用上問題ないレベルになっているという。

(2)の光導波路モジュールは,4チャネルのVCSELと4チャネルの光ファイバ・アレイ,そして導波路をすべてパッシブ・アライメントで組み上げた。パッシブ・アライメントとは,画像認識技術を用いながら機械的に組み上げるだけの位置合わせの方法。一方,光の結合状態などを観測しながら位置合わせをする方法はアクティブ・アライメントと呼ぶ。

 今回ソニーは,光ファイバのガイド用溝を高分子で製造した導波路に設けるなどしてパッシブ方式での位置合わせ精度の問題を解決したという。「今回の精度は±15μm。現在のマウンタなどの実装用機器が十分利用できる」(同氏)。

 こうして実装したモジュールの光挿入損失は,約1.7dB~3.2dBだった。今回は4チャネルの光導波路モジュールだが,チャネル数を12チャネル程度まで拡張することは容易だという。

 ソニーは今後,信頼性のさらなる向上を図ると同時に,多チャネル送受信対応のアレイ化技術などの開発を進め,短距離光通信から業務用,民生用AV機器まで,幅広い用途での光配線技術の実用化を目指すという。