図1 決算を発表するソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏
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図2 ボーダフォンの買収で,通期ベースでは売上高が2兆円規模に
図2 ボーダフォンの買収で,通期ベースでは売上高が2兆円規模に
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図3 利益の半分をボーダフォンが稼ぐ収益構造に
図3 利益の半分をボーダフォンが稼ぐ収益構造に
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 「もう朝から晩までケータイのことを考えている――」(ソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏)。

 ソフトバンクの連結決算の内容は,買収したボーダフォンが2006年5月から連結対象に入ったことで,従来と大きく様変わりした。

 同社の2006年度第1四半期の売上高は,前年同期比91%増の4942億円と倍増した。このうちボーダフォンの売上高は2315億円で,売上高の増分にほぼ等しい。営業損益は,同574億円改善となる543億円の黒字である。ADSL事業や固定電話サービス事業が堅調に利益を出したほか,ボーダフォンの営業利益272億円が上積みされた。

ソフトバンクの携帯戦略を探る

 ソフトバンクが描く携帯電話事業の姿は,依然としてベールに包まれている(Tech-On!関連記事)。孫氏をはじめソフトバンクの誰もが,同事業の戦略について堅く口を閉ざしているからだ。それでも,決算発表での孫氏および幹部の発言から,ソフトバンクが考える携帯電話事業の姿がおぼろげながら見えてきた。

基地局――4万6000超の3G局+マイクロセル網

 ソフトバンクは2006年度中に,第3世代(3G)携帯電話に対応する基地局の数を,同年6月末時点と比べて倍増となる4万6000局へ増やす計画である。この数字は,NTTドコモの目標値とされる4万4000局を上回る。一気呵成(かせい)に基地局網を増設することで,2006年10月に控えた番号ポータビリティの導入までに「ボーダフォンの3G端末はつながりにくい」との悪評を覆そうという考えだ。

 同社は2006年5月にこの目標を掲げて以来,基地局の設備や設置場所の確保に奔走した。この結果,設置場所は9割を確保でき,基地局設備の調達のメドも立ったという。現在,高さ40mほどの位置に設置する遠距離向けの基地局を中心として,20~30局/日のペースで基地局を敷設しているという。同年10月以降には,高さ15m~20mの近距離向け基地局を中心に,数百局/日という猛烈なペースで敷設する計画という。

 HSDPAサービスに対応した基地局は,サービスを開始する2006年10月の時点で6500局を敷設して「主要都市ではいつでもどこでもつながるようにする」(孫氏)。通信速度は,サービス開始当初は下り1.8Mビット/秒になる予定である。

 次に,同社の中長期的な通信インフラ戦略をみてみよう。ソフトバンクは,上記の計画だけで十分な通信インフラを用意できるとは考えていない。同社は,動画を中心とする大容量コンテンツの配信をサービスの目玉に据えており,そのためには他社より高速な通信網が不可欠だからだ。このため中長期的には,広範囲をカバーする現行の基地局に加え,狭い範囲をきめ細かくカバーする無線通信網を敷設する考えである。「大容量コンテンツを配信する際には,ソフトバンクのIP通信網と直結したマイクロセルの無線通信網を用意することで,遠距離向け基地局の負荷を抑えたい」(ボーダフォン(2006年10月よりソフトバンクモバイルに移行) 取締役 専務執行役 CTOの宮川潤一氏)。こうしたマイクロセル無線通信網の物理層に何を採用するか,現在もゼロベースで検討中という。

 マイクロセルの無線通信網の候補として考え得るのは,無線LAN,PHS,そして超近距離向けの3G基地局である。高速なデータ伝送速度と安価な設備投資を両立するには無線LANが真っ先に候補に挙がりそうだが,宮川氏はこれに慎重な考えを示す。「無線LANを採用するには,無線LANから3Gとの切り替えをユーザーに意識させず,かつ電池をこれまで以上に消耗させない技術が必要だ。しかし,これらの要求を満たせる技術ソリューションはまだない」(宮川氏)。一部報道では,ソフトバンクは数年内に超近距離向けの3G基地局を含め,基地局を10万局まで増設するとしている。ただしこの計画には,多額の設備投資を伴うデメリットがある。

端末――プラットフォームを絞り込む

 同社は2006年秋商戦に向けて,新たにパナソニック モバイルコミュニケーションズから端末の供給を受ける考えを明らかにしている。さらに,一押しでヤフーのポータルサイト「Yahoo!モバイル」を呼び出せる「Yahoo!ボタン」を各端末に搭載する(Tech-On!関連記事)。法人向けには,フィンランドNokia社から調達したビジネス向け端末や,Windows Mobileベースの端末などを提供する計画である。

 中長期的には,ソフトバンクは端末のハードウエア/ソフトウエアのプラットフォームを絞り込み,調達コストを抑えたい考えだ。「我々の手で新たにプラットフォームを作るのではなく,既存のプラットフォームの中から選択することになるだろう」(宮川氏)。ソフトバンクは現在,大容量コンテンツを配信を担うミドルウエアや,全機種に搭載予定のフル・ブラウザーの開発を表明している(Tech-On!関連記事)。これらのソフトウエアは,同社が選んだプラットフォームの上に構築することになりそうだ。

 ではソフトバンクは,どのプラットフォームを選択するのか。国内市場に照準を合わせる同社の戦略からして,フィンランドNokia社のプラットフォームなど日本で普及していないプラットフォームの採用は考えにくい。とすれば,候補は三つある。パナソニック モバイルコミュニケーションズやNECが採用するLinuxベースのプラットフォーム,シャープなどが採用するSymbianベースのプラットフォーム,au陣営が採用するBREWベースのプラットフォームである。同社は,大容量コンテンツの配信という自社の戦略に最も相応しいプラットフォームはどれか,慎重に選定している。この選択次第で,ソフトバンクに端末を供給するメーカーの顔ぶれは大きく変わりそうだ。

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