つくばエクスプレス列車内における無線LANインターネット接続環境の整備が完了し,いよいよ2006年8月に商用サービスが始まる(ニュース・リリース)。秋葉原からつくばまでの全20駅,58.3kmの区間で,平均して1.4Mビット/秒の高速インターネット接続環境を利用できる。
この接続環境整備を進めていたのは,インテル,首都圏新都市鉄道,エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)の3社である(Tech-On!関連記事)。つくばエクスプレスが開業した2005年8月から接続環境の試験を始め,今までに4000人以上の試験ユーザーがこの接続環境を利用した。試験が2006年7月末に終了した後,NTTドコモの無線LANサービス「Mzone」「mopera U*」によるサービスが2006年8月24日から始まるほか,2006年末にはNTT東日本の「フレッツ・スポット」がサービスを開始する。
コスト重視で決めたネット接続方式
時速130kmで疾走する列車を,どうやってインターネットにつなげるか――。インフラ整備を任されたNTTBPは,実現可能なあらゆる方法について,コストや性能を検討した。具体的には,以下の選択肢があった。
1.PHSや携帯電話の回線を複数束ねて利用する
2.モバイルWiMAXを利用する
3.人工衛星を利用する
4.漏えい同軸ケーブルを敷設する
5.無線LANの地上アクセス・ポイントを路線上に多数並べる。
このとき,特にNTTBPが重視したのが「採算性」である。その結果,1~4は候補から外さざるを得なかった。
1は,回線使用料がランニング・コストとして無視できない金額になる懸念がある。2は,まだ国内で商用サービスがなく,設備や装置が高価である。3は,「Connexion by Boeing」など飛行機内のインターネット接続サービスとして実用化している(2003年の体験イベントの記事,2005年の状況についての記事)。だが,こちらも人工衛星の回線使用料で多額のランニング・コストが発生する上,信号が衛星と地上を行き来することで数百ms単位の遅延が起きる問題があった。4は,現在JR東海が新幹線向けに2009年春をメドに実用化を目指す技術で,まだ時間とコストがかかる。
そこで,NTTBPが採用したのが5である。具体的には,つくばエクスプレスの沿線に500m~800mおきに2.4GHz帯の無線LANアクセス・ポイントを並べた。この方式なら,一度敷設すればランニング・コストはほとんど要らない。
アクセス・ポイントの数は,駅の端に設置したものが38局,中継局が27局である。中継局を有線でつなぐと設備コストがかさむため,ほとんどの中継局を26GHz帯の固定無線アクセス・システム「WIPAS」で相互に接続した。WIPASの無線は指向性が高くてトンネル内でも伝送が容易なほか,強い雨を想定しても700m程度の距離であれば問題なく伝送できる。駅のアクセス・ポイントまでは,ホッピング方式でデータを伝送する。この部分のデータ伝送速度は最大54Mビット/秒である。
2.4GHz帯の無線LANの場合,時速130kmで走行することによるドップラー・シフトの影響は「それほど問題にならない」(NTTBPの説明員)という。むしろ問題なのは,わずか15秒~20秒ほどで一つのアクセス・ポイントのカバー領域を次々に通過してしまうことである。1つのカバー領域から隣り合う領域へ,高速にハンドオーバーする技術が必須となる。
NTTBPは,アクセス・ポイントを切り替えても端末側は同じIPアドレスで通信し続けられるIP層のハンドオーバー技術「MobileIP」に対応するルータを使うことにした。その上で数百msでハンドオーバーできる技術を開発,今回の商用化に道を開いたという。