Blu-ray Discの推進団体「Blu-ray Disc Association」は2006年7月19日,日本レコード協会(RIAJ)や日本映像ソフト協会(JVA)などの関係者を招いてセミナーを開催した。再生専用Blu-ray Disc(BD-ROM)のタイトル制作に必要な著作権保護技術のライセンスやオーサリングなどについて現状を解説するセミナーである。

 対立する「HD DVD」陣営が2006年3月にプレーヤーを市場投入し(東芝の「HD-XA1」の記事),BD陣営も同6月~9月に相次いでプレーヤーを発売することもあり(松下電器産業と韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.のプレーヤーの記事),国内のタイトル制作者も次世代DVDに注目をし始めている。同セミナーの会場にも続々と参加者が集まってきていた。

 セミナーではまず,BDの著作権技術の概要が説明された。

【図1】BD-ROMとHD DVD-ROMの仕様の比較表。なおプロジェクタなどの設定の関係で,以下のプレゼンテーションの右側が一部切れているがご容赦いただきたい。
【図1】BD-ROMとHD DVD-ROMの仕様の比較表。
なおプロジェクタなどの設定の関係で,以下のプレゼンテーションの右側が一部切れているが,一連のほぼ同じ内容のPDFファイルがこちらにあるのでご参照いただきたい。(クリックで拡大)

 「BD-ROMとHD DVD-ROMにはいろいろな違いはあるが,最も異なるのは著作権保護技術(上表で黄色地に「CPS」と書かれている部分)のところ」(パイオニア 研究開発本部 AV開発センター フォーマット開発部 第一開発室 室長の安島浩輔氏)。具体的には,HD DVD-ROMはAACS(advanced access content system)だけなのに対し,BD-ROMではAACSに加えて「BD-ROM Mark」および「BD+」という著作権保護技術も追加して利用できる。

 AACSは,これまでのCSSやCPRMといったコンテンツ暗号化方式の延長に位置付けられるもの。暗号を128ビット化して強度を増したり,ネットワーク接続などへの対応を図ったりとさまざまな点で改善を図っている。

 一方,BD-ROM Markは,BD-ROMディスクの原盤を作る際のマスタリング時に,ピット(記録面上の微細な凹凸)の形状などに操作を加えることで正規のディスクを保護する方式である(例えばこのような装置でピット形状を調整するもよう)。BD-ROM Markを埋め込んだディスクをいわゆるビット・バイ・ビットでBD-Rディスクなどにコピーすると,BD-R上では記録マークの形状が通常のものに戻る。ディスクの再生にあたって,光ヘッドが読み取ったアナログ信号(デジタル信号に直す前)を解析し,それがBD-ROM Markを含んでいるときのみに再生を行うようにすれば,不正コピーを防ぐことができる。

 BD+は上記の二つとはまた異なる方法でクラッキングを防止する。プレーヤー側に用意する「Secure VM(仮想マシン)」と各ディスクに書き込むVM用ソフトウエアなどを連携させることで,非常に柔軟なコンテンツ保護を実現しようという方法だ。

 例えば,あらかじめディスクの各部にデジタル的な「傷」(データ・ストリームの一部を壊す)を付けておき,その場所と修正するためのデータをディスク上の別の場所に保持しておく。プレーヤーがこのディスクを再生すると,AACSのデコードまではうまく行くが,データ・ストリームが壊れているので正しい映像が出ない。そこでSecure VMを動かし,リアルタイムに傷の部分をFUT(fix up table)に基づいて上書きしていく。それで初めて正しい映像を再生できる。

 なぜこんなことをするかというと,仮に,あるタイトルのAACSとBD+がクラッキングされ,不正コピーが出回ってしまった場合,それ以降に生産するディスクについては傷を付ける場所などを変えるだけで対応できるからである。さらにBD+では,不正な再生プログラムを検知するためのVM用ソフトウエアを各ディスクに埋め込んで,そうしたソフトウエアの動作を検知したときは正しく再生できないようにすることもできるようだ。

 業界の一部には「AACSだけで十分ではないか。BD-ROM MarkやBD+までやると再生装置のコストにもはね返ってしまうので得策ではない」との声もある。しかしコンテンツ保有者としては,リスクを避けるオプションは多いほどいい。今回のセミナーで制作中の一部コンテンツなどを披露した20世紀フォックスホームエンターテインメントジャパン マーケティング本部の佐藤英樹氏も「当社がBD陣営に入っている大きな要因は,BDの著作権保護技術を評価したこと」と強調していた。

 なお,現在AACSは,AACS LA, LLCが暫定ライセンス中である。同ライセンスは2006年2月17日に始まった。正式なライセンス時には「Managed Copy」や「Digital Only Token」「Audio Watermark」なども組み込まれることになる(このあたりの状況はこちらのPDFファイルも参照いただきたい)。

 AACSのライセンス契約には,主に4種類ある(それぞれ暫定)。機器メーカーや半導体メーカー,ディスク・メーカーなどに向けた「Interim Adopter Agreement」,権利などを非常に重視するタイトル制作者に向けた「Interim Content Participant Agreement」,一般的なタイトル制作者に向けた「Interim Content Provider Agreement」,そして半導体商社などに向けた「Interim Reseller Agreement」である(このほか,鍵データ購入のための「AACS Key Delivery Agreement」もある)。

 このうち「Interim Content Participant Agreement」は,AACSの仕様変更前に異議申し立てができる権利や,違反機器の製造者などをAACS LAの動きを待たずに直接に訴えることができる権利などが付与されている。その代わり,ライセンス料は年間4万米ドルかかる。もう一つの「Interim Content Provider Agreement」は,さらに2つに分かれている。極めて大量のディスクを出荷するときにディスカウントが受けられる「Volume Content Provider」と「Basic Content Provider」である。

 このディスカウントは,記録済みのディスク1枚あたりに課されるAACSの料金(「Prerecorded Media Fee」)に対して適用される。ただし実際にディスカウントが効き始めるのは,年間のディスク生産量が500万枚を超えるような場合なので,通常はBasic Content Providerで十分だという。Basic Content Providerなら,一度3000米ドルを払い込めば何タイトルでも制作できるし,さらに契約はずっと続く(次の年以降にAACSの契約料費は発生しない)。

 ただし,新しいタイトルをつくるごとに発生する料金もある。鍵データの束であるMKB(media key block)と「Content Certificate」の購入に費用が必要になる。Content Certificateは,各タイトルに1つずつ必要なもので,正規のBD-ROMタイトルであることを示すAACS LAのデジタル署名である。従来の契約では,これを購入するのに1タイトルあたり1500米ドル,さらに手数料として1000米ドルが必要だった。しかしこれが「高額すぎる」という批判が一部であり,これに応える形で購入費の1500米ドルを500米ドルに減額する方向でほぼ固まっているという。