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 ソニー 代表執行役 会長 兼 CEOのHoward Stringer氏と,同 社長 兼 エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏がそろって記者会見に臨んだ。経営の責任者となって1年を経過したタイミングでマスコミからの質問を受け付けるためだ。この中で両氏が再三,再四強調したのは,ソフトウエア開発力の向上である。以下に発言の要旨を紹介する。

「CONNECT Player」を超えて

Stringer氏  ソフトウエア開発とハードウエア開発は「結婚」する必要がある。当社の若い従業員からこうした提起があった。私もその意見に賛同している。ソフトウエアなしにハードウエアの開発は成り立たない。様々な機会を捉えてソフトウエア技術者からソニーを変えるための意見を聞くようにしてきたし,ある幹部の会合で前の方に座ってもらったのは,役職が上の人ではなくソフトウエアの技術者である。従来,こういうことはなかった。

 ソフトウエア技術者も非常によくやってくれている。当社のソフトウエア技術者が週末,自分の時間を使って開発したアーキテクチャを,当社が採用したという例も出ている。こうしたソフト開発現場の動きは,下から沸き上がってきた革命といえる。当社が得意なコンテンツとハードウエアを橋渡しする役目を,ソフトウエア技術者は担ってくれる。

 「iTunes」に対抗して開発した「CONNECT Player」は,失敗に終わったといわれている。その一因には,パソコン流の水平分業型の開発体制に不慣れだったことがある。ソニーはこれまで,組み込みソフトウエアについて優れた開発能力を示してきたのだが,それはサイロのような垂直統合型の開発体制を前提にしていた。その上,CONNECT Playerでは,米Apple Computer, Inc.が5年掛けて実現した機能や品質を,1年で得ようとあまりに強い圧力を現場に掛けてしまった点がいけなかった。

 一方,組み込みソフトウエアについても,家電のデジタル化によって開発資産を流用するといった開発効率の向上が必要になっている。ソフトウエア開発のプラットフォームを整えなければならない。我々はDigital Visionを持っていたものの,その実施が遅れていたかもしれない。ソフトウエア開発におけるマネジメント能力を高めたい。

——どんなソフトウエアを開発するのか?

Stringer氏  現在,開発に注力している例として,「PSP」や「プレイステーション3(PS3)」,音楽プレーヤー用のソフトウエアがある。PSPのソフトウエアはビデオに使うもので,「iPod」が音楽で起こしたようなインパクトを映像にもたらすだろう。なお既にうまく行っている例として,SonyEricsson社の携帯電話機用ソフトウエアがある。合弁事業なので,あまり注目を集めていないようだが,「ウォークマン ケータイ」はiPodを超える成功を収めるかもしれない。

中国はほかと全然違う

——BRICs市場をどのようにみているのか?

中鉢氏  一口にBRICsと言っても中国とそれ以外では全く違う。中国はかつて低賃金を活かした製造拠点だった。これを第一期とすると,今は第二期である。すなわち,現地技術者の優れたエンジニアリング能力を活用することである。当社も上海や大連に開発拠点を構えて,この取り込みを図っている。

 そして,すぐ第三期がやってくるはずだ。それは「世界の工場」から「世界の市場」への移行である。もはや中国からの輸出は前提でなくなる。設計から製造,販売まで,すべてが中国国内で完結する。

 第三期において日系企業は,キー・コンポーネントなどの生産材を中国に供給し,それを中国にある企業が加工するだろう。日系企業の生産材は依然として,いやむしろ,これまで以上に高い競争力を保持している。中国と日本,さらには韓国,台湾企業の協調によって,電機産業は東アジア圏でますます発展するだろう。

PS3が高価かどうかは市場が決める

——6万円を超えるPS3の価格設定は高過ぎないか?

中鉢氏  「Blu-ray Disc」を再生でき,「Cell」を搭載するPS3は,もやは家庭用ゲーム機という既存のワクにとどまらない商品。将来の技術変化を見越した仕様を盛り込んでいる。そうでない仕様の他社品と比べて「オーバー・スペックではないか」という意見があることは承知しているが,PS3の価値は市場でお客様に判断してもらうしかない。

Stringer氏  安価で改良的な進化をさせるのか,リスクを取って将来に向けた革命を起こすのか。我々は後者を選んだ。マスコミは「ソニーはイノベーションを起こさなければならない」という。ソニーは今まさに,PS3というイノベーティブな商品を提供しようとしている。

撮像素子や電池に賭ける

——今後の成長を牽引する製品は何か?

中鉢氏  成長には量と質の二面がある。量の面では撮像素子と液晶パネル,バッテリーに集中的に投資していく。質の面では例えば,デジタル一眼レフ機がある。コニカミノルタが築いてきたカメラ文化を継承し,発展させたい。量と質の両面に関係する「次世代」商品の研究・開発も進める。有機ELパネルやMRAM,次世代バッテリー,さらにコーデックやDRMなどのソフトウエアの開発に力を注ぐ。

——液晶テレビは供給過剰にならないのか?

中鉢氏  当社は今年度,液晶テレビを600万台販売する予定だ。さらに増産したいところだが液晶パネルが足りない。当社におけるこうした状況はあと2~3年続きそうだ。