IEEE Standards Association(IEEE-SA)Standards Boardは6月15日,IEEE802.20作業部会のすべての活動を一時停止させたと発表した(PDFファイルの発表資料)。停止期間は2006年6月8日~同年10月1日。IEEE-SAはIEEEで標準規格の策定を統括する組織である。この結果,802.20作業部会が予定していた2006年7月のIEEE802委員会総会と9月の臨時部会での会合はキャンセルされた。

 IEEE802.20作業部会は別名MBWA(Mobile Broadband Wireless Access)と呼ばれ,IEEE802.16作業部会などが策定した広域無線アクセス方式の「WiMAX」に対抗する形で無線規格を策定中だった。IEEE802.20作業部会が発足したのは2002年と早いが,最初の数年間は策定作業がほとんど進まなかった。

2006年1月に,米QUALCOMM,Inc.と京セラがそれぞれ提案する伝送方式がドラフト案のベースとして採用され,ドラフト案の策定がようやく始まったところだった(関連記事)。この伝送方式は日本国内で2.5GHz帯の70MHz分を広域無線アクセス方式に割り当てる議論の中でも,WiMAXと並んで有力候補の一つになっている。しかし,今回の停止命令による標準化の遅れは,無線方式の選択に関しても大きな影響を与えそうだ。

5月には議長から警告

 IEEE-SA Standards Boardは,今回の措置に踏み切った理由として,(1)802.20作業部会の初期から同作業部会のあり方に対するいくつかの異議申し立てがあり,最近の策定活動にも過去の事例をはるかに超える反対意見がでていた,(2)作業部会の運営に対して予備的な調査を行ったところ,運営形態に透明性を欠き,意見の一方的支配やいくつかの異常な動きがあることが判明した,ことを挙げる。

 IEEE-SA Standards Boardは,今回の停止命令に先立つ2006年5月5日付けで,議長のSteve Mills氏の名による警告を発していた。「IEEEの活動は,公正と公開の原則の下に進められるべきだが,IEEE802.20作業部会ではそれが守られていない。特に一部の企業による独占状態などに懸念を持っている」(Mills氏)。

 IEEE-SA Standards Boardは「現在の問題が解決され,公正と公開の原則が確保されれば,再び活動可能になる」としている。

背景にIntel陣営とQUALCOMM陣営の対立

 今回の策定停止命令の背景には,IEEE802.16とIEEE802.20の対立がある。IEEE802.20は,当初「固定無線」指向だったIEEE802.16から,移動体通信への対応を目指して分離した作業部会。ところが,IEEE802.16でもモバイルWiMAXIEEE802.16eなど移動体対応の規格策定を進めるようになり,IEEE802.20とのすみ分けが不明確になっていた。

 2006年になってIEEE802.20をQUALCOMM社が主導するようになり,IEEE802.16を主導する米Intel Corp.との対立が一気に先鋭化した(関連記事)。特にIEEE802.16陣営からは「ほとんど参加企業がいない中で,一方的に策定作業を進めている」(ある通信事業者)との批判が出ていた。