図1 開発した紫外線LEDとその構造
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図2 発光スペクトル
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図3 1100℃での結晶成長で格子欠陥が1/10以下に
図3 1100℃での結晶成長で格子欠陥が1/10以下に
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図4 MgやSiを混入してp型,n型を作製
図4 MgやSiを混入してp型,n型を作製
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図5 バンドギャップはダイヤモンドよりも大きい
図5 バンドギャップはダイヤモンドよりも大きい
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 NTT物性科学基礎研究所は,バンドギャップが非常に大きいAlN(窒化アルミニウム)結晶を用いた発光ダイオード(LED)を作製し,波長210nmと遠紫外線(UV-C)の中でも非常に短い波長で発光させることに世界で初めて成功した(図1,図2)。この内容は学術雑誌「Nature」の5月18日号に論文が掲載された。当初の応用先はダイオキシンやPCBなど環境汚染物質の分解などを見込むが,ナノ・テクノロジーへの応用や光記録メディアのさらなる大容量化なども可能になるという。

 AlN結晶は理論的には「直接遷移型」という発光効率を高めやすいバンド構造をしており,しかも直接遷移型の中では最もバンドギャップが大きい半導体結晶であることが知られている。バンドギャップの大きさと発光波長は反比例するため,AlNをLEDに用いて発光させることができれば,最も波長の短い波長のLEDが得られることが分かっていた。

ドーピング技術も「世界で初めて」

 ところが,これまでAlN結晶を用いたLEDの開発例はなかったという。AlとNの結合力が他の半導体結晶に比べて強いことから,結晶作製時に格子欠陥やAlとNの副次生成物が生じやすいという課題があったためである。今回,NTTは高純度結晶の作製技術に加え,p型とn型の結晶を作るドーピング技術も合わせて開発したことで,LEDの発光にこぎつけたと説明する。

 高純度のAlN結晶の実現は具体的には,1100℃と従来より100℃高い温度でのMOVPE(有機金属気相エピタキシ)法向け結晶成長装置の開発や,AlとNの副次的な反応の抑制技術がポイントになった(図3)。これらの技術で,格子欠陥密度や不純物は従来の1/10以下になったという。さらに,こうして得られた高純度結晶にMgをドーピングしてp型AlN,Siをドーピングしてn型AlNを作製する技術も開発した(図4)。LEDは,AlN発光層をp型とn型のAlNで挟んだ構造になっている。

さらなる高密度の光ディスクも可能に

 210nmという波長は,UV-Cの中でも大気中を伝播できる限界の200nmに近い(図5)。有機物などを分解する能力が高いため,NTTはダイオキシンやPCBの分解に応用できると考えている。AlNのバンドギャップは6eVで,現在青色LEDに一般に用いられているGaNの3.3eVよりも約1.8倍も大きい。波長は,GaNの1/1.8となり,光記録ディスクに応用するとGaNに比べて約3.2倍の高密度記録が可能になるという。

 これまでUV-Cの光源は,水銀ランプやガス・レーザなど大型の装置に限られており,水銀の問題や小型化しにくいといった課題を抱えていた。NTTは,今回のLEDを安定化,高出力化していくことで,将来はガス・レーザの代わりに微細加工技術に利用できると見ている。