任天堂の岩田聡氏

任天堂が2006年内に発売予定の新型ゲーム機「Wii」を披露した。従来のコントローラを刷新し,加速度センサを使い上下左右に動かすことでキャラクターを操作できるユーザー・インタフェースを採り入れた。携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の大ヒットを追い風に,据置型ゲーム機の世界でもユーザー・インタフェースの革新をもたらす。同社 代表取締役社長の岩田聡氏がWiiに込めた想いを余すところなく語ってくれた。(聞き手は浅見直樹=ITpro発行人,蓬田宏樹=シリコンバレー支局)


―― なぜ,ユーザー・インタフェースが重要だと考えるようになったのですか。

岩田氏 任天堂は,どうやったらゲームを楽しんでくれるユーザーを増やせるか,この命題に数年間,挑み続けています。私も技術屋なので,技術を否定する気は全くない。新しい技術が出て,それを応用するのはすごいことだと思う。ただ,もっと絵がきれいになっても,これ以上ゲームをやる人は増えないと危機感を覚えた。それでは,どうすればよいか。そこで目を付けたのがユーザー・インタフェースだった。

任天堂 岩田氏

―― 20年続いたコントローラを変えるのは,勇気のいる決断だったのではないでしょうか。

岩田氏 今のコントローラの標準形状を決めたのは任天堂ですからね。両手で持ち,十字ボタンで制御するというのは任天堂が提案し,それをユーザーが受け入れてくれ,業界の標準となったという歴史がある。自分で決めた標準を自分で壊すわけだから,社内でも反対の声があった。本当に大丈夫なのかと。ただ,今から13カ月前,試作機ができあがったのに触れてみて,実際にデモのゲームを操作してみて,「これならいける」との手ごたえを得た。触ったからこそ分かる自信が裏付けとなって,去年のE3において,私は「革新的なインタフェースというのがこれからのゲームを変える」と宣言したわけです(関連記事:任天堂がRevolutionの試作機を公開)。

試作品なら山ほど作った

―― すんなりとこの形状に決まったのでしょうか。

岩田氏 実はずいぶん前から,新しいユーザー・インタフェースを開発するプロジェクトに取り組んでいました。3年くらい前に要素技術の研究に着手し,2年前にタスク・フォースのチームを結成していたんです。任天堂の本社にはソフトウエアとハードウエアの開発チームが入っていますが,その両方がいっしょになって毎週のように会合を開き「ああでもない」「こうでもない」と模索を続けてきた。

 インタフェースの世界は,スペックを追いかけるのとは違って,どう感じるかがポイントなので,試してみないと分からないんです。「こんな要素技術があるけど応用できないか」「こんなのを作ってみたけど使い物になるか」など,山ほど試作品を作ってみました。最初は作っては捨て,作っては捨て,の連続でした。やはり,20年間使ってきたコントローラが比較対象になるので,新しいアイデアが出ても,その悪いところばかりに目がいってしまい,ついつい否定が先に立つ。そしてようやく,1年前に,この形に落ち着いた。既存の発想を壊して,新しいアイデアを育むのは容易なことではないですね。

―― コントローラにスピーカーがついているのはなぜですか。

岩田氏 これは1年前の試作機にはなく,比較的最近になって付けた機能です。ゲーム側からユーザーに,どういうフィードバックを戻すべきかを検討した。今は振動しかないわけですが,そこに音を持ち込んだらどうかと考えてみた。5.1チャネルのスピーカーが装備された家庭であれば臨場感ある音を楽しめるのは確かだが,すべての家庭にそうしたオーディオ設備があるわけじゃない。ならば,コントローラにスピーカーがついたらどうなるか。例えば卓球やテニス,ゴルフの際に打球音が手元から出てくる。実際,試してみると,なかなか楽しい。

「次世代機」ではない