Spansion社が試作した大容量SIMカード。現在は2チップ構成だが,2007年の製品化時には1チップ構成にする
Spansion社が試作した大容量SIMカード。現在は2チップ構成だが,2007年の製品化時には1チップ構成にする
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米Spansion Inc. Director of MarketingのMartin Booth氏。
米Spansion Inc. Director of MarketingのMartin Booth氏。
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携帯電話機のSIMカードの大容量化に向けた提案が相次いでいる。もともとSIMカードは,携帯電話機の不正複製を防ぐために開発された「セキュア(安全)」なメモリ・カードである。大容量品を推進するメーカーは,容量の拡大により用途の拡充を図る。大容量品を開発するメーカーの狙いや開発背景などを,3月に来日した米Spansion Inc. Director of MarketingのMartin Booth氏に聞いた。(聞き手は,菊池 隆裕=日経エレクトロニクス,大下 淳一=NIKKEI MICRODEVICES)

--なぜSIMカード市場に参入したのか
Booth氏 現在,SIMカードの年間出荷数は10億枚に達している。当初の欧州やアジアだけでなく,米国や日本でも利用が広がっている。2010年には20億枚に達するという予測もある。ROMとEEPROMの組み合わせが主体の現在の容量は数十Kバイト程度でアドレス帳の一部を書き込む程度の用途に限られている。われわれのフラッシュ・メモリ技術によって数十Mバイト以上と大容量にすればまったく新しい用途を開拓できると考えた。

--Spansion社が開発した大容量SIMカード「HD-SIM」はどのような用途を想定したものか
Booth氏 コンシューマ向けと企業ユーザー向けの2種類を想定している。コンシューマ向けには音楽やビデオのようにデジタル著作権管理(DRM)が必要なもの。SIMは,携帯電話機の中で最も安全な場所である。そこに音楽や映像などのコンテンツを同梱して通信事業者が販売するようなモデルが考えられる。もう一つの企業向けでは,顧客の電話番号などの貴重な情報を携帯電話機などに入れていても,失くしたり盗まれた場合には通信事業者が遠隔地からSIMカードを読み出せないようにすることもできる。

--既存のSIMカードとHD-SIMは何が違うのか
Booth氏 まず容量が1000倍以上であること。しかも,既存のカード用スロットに差し込んで使うことができる。記録媒体としては,従来のようにマスクROMやEEPROMではなくフラッシュ・メモリを採用しており論理回路も1チップに統合できるため,柔軟性がある。論理回路の統合では,この分野に強いイスラエルM-Systems Ltd.と提携した。さらに,USBやMMCなどの高速インタフェースを採用している。データが大容量化すれば,数バイト単位のデータ送受信を想定した現在のISO7816で規定されるインタフェースでは足りない。

--論理回路とメモリの統合という点での技術的な強みは何か
Booth氏 われわれが採用している「MirrorBit」技術は,先にメモリ部を形成した後に数枚のマスク・プロセスを追加するだけでロジックを混載できる。これは他社の混載向けフラッシュ・メモリ技術にはない強みだ。

--HD-SIMの構成はどうなっているのか
Booth氏 32ビットのARMコアと3種類のメモリを統合している。メモリの1つはOSやアプリケーション・ソフトウエアを搭載する「コード・フラッシュ」。2つめは大容量のデータを格納する「データ・フラッシュ」。最後が既存のアプリケーションをエミュレートして互換性を保つEEPROMである。このほか,暗号化エンジンと,電圧や温度,論理的な攻撃を感知するセキュリティ用センサを搭載している。

--製品の提供計画は
Booth氏 現在,アプリケーション開発用のSDKの提供を始めている。2007年には供給電圧が3Vの64Mバイト品と16Mバイト品,2008年には1.8Vの64M/128M/256Mバイト品を用意する。2007年の製品は90nmルールのCMOS技術で,2008年の製品は65nmルールを適用する。

--価格はどれくらいになるのか
Booth氏 詳細な価格は公開していないが,現在22~25米ドルのコストがかかるSIMカードと10~20米ドルのフラッシュ・メモリーを合わせたものよりは安くできるだろう。