図1 カーボン・ナノチューブ1本に,計12個のFETを形成した。左下の写真は,人間の髪の毛と回路の大きさを比べたもの
図1 カーボン・ナノチューブ1本に,計12個のFETを形成した。左下の写真は,人間の髪の毛と回路の大きさを比べたもの
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 米IBM Corp.の研究開発部門であるIBM Researchは,1層のカーボン・ナノチューブ1本の上にリング・オシレータ回路を初めて試作し,52MHzで動作させることに成功したと発表した。この動作周波数は,複数本のカーボン・ナノチューブを使って試作した従来のリング・オシレータと比べ,5ケタ~6ケタ高い値という。この成果は,2006年3月24日発行の科学誌「Science」に掲載される。

 カーボン・ナノチューブで形成したトランジスタは,Siなど従来の半導体と比べて高い電流密度を得られるほか,直径数nmという細さから,回路の微細化が容易とされる。原理的には,THzオーダーの周波数で動作する回路を作れる可能性があるという。

 今回試作したリング・オシレータ回路は,半導体メーカーが新しい製造プロセスや材料を使ったチップを評価するための試金石として試作されることが多い。「現在,科学者たちは個々のカーボン・ナノチューブ・トランジスタの製作や改良に焦点を当て過ぎている。我々は,(試作したリング・オシレータによって)完全な形の回路でカーボン・ナノチューブ・エレクトロニクスが持ち得る潜在力を評価できるようになった」(IBM Research社 Science & Technology Vice PresidentのT.C. Chen氏)。

 今回,IBM Reseachの研究者は,長さ18μmのSWCNT(single-walled carbon nanotube)に,p型のFETとn型のFETをそれぞれ6つ形成した。n型向けのメタル・ゲートにはAlを,p型向けのメタル・ゲートにはPdを用いる。これにより,SWCNT1本に6つのCMOSインバータを形成してみせた(図1)。このうち5つのCMOSインバータでリング・オシレータ回路を形成し,残りの1つは,測定器からの影響を遮断するためのインバータとして使用した。この回路を発振させた結果,動作電圧VDD=0.5Vで発振周波数13MHz,VDD=0.92Vでは発振周波数52MHz(遅延時間1.9ns)を達成したという。

 ただし,Siで形成したリング・オシレータの発振周波数には4ケタ以上及ばないのが現状のところ。IBM Researchによれば,この発振周波数は回路の寄生容量で律速されており,実際にはカーボン・ナノチューブはこれより高い潜在力を持つとしている。