ナノ・バイオ技術への注目度の高さを示してシンポジウム会場は満席となった。
ナノ・バイオ技術への注目度の高さを示してシンポジウム会場は満席となった。
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Si-LSIの根幹であるリソグラフィを始めとするトップダウン手法に限界が見えてきた。
Si-LSIの根幹であるリソグラフィを始めとするトップダウン手法に限界が見えてきた。
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フラットパネル・ディスプレイ向けTFTの作製にタンパク質を活用する。
フラットパネル・ディスプレイ向けTFTの作製にタンパク質を活用する。
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高周波デバイスなどへの応用が期待されるダイヤモンド半導体を使ったFETでDNAセンサーを作製。
高周波デバイスなどへの応用が期待されるダイヤモンド半導体を使ったFETでDNAセンサーを作製。
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 バイオ・テクノロジとナノ・テクノロジを融合させた「ナノ・バイオ技術」をエレクトロニクスに活用する試みへの関心が高まっている(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2Tech-On!関連記事3用語「バイオ・ナノ材料」)。

 2006年3月22~26日に開催中の「第53回応用物理学関係連合講演会」では,タンパク質を利用してフラットパネル・ディスプレイ(FPD)や不揮発性メモリーを作製したり,ダイヤモンド・トランジスタのような新規の電子デバイスをバイオ・センサーに利用するといったナノ・バイオ技術絡みの提案が相次いだ。『電子デバイスを目指したバイオテクノロジーとナノテクノロジーの融合』と題して開かれた専門シンポジウムは,定員約300人の講演会場に立ち見が出る盛況で,日立製作所や松下電器産業といった大手デバイス・メーカーからの参加者も目に付いた。

「リソの限界」が背景

 ナノ・バイオ技術への関心が高まっている背景には,長年エレクトロニクスの進展を支えてきた,露光技術を始めとするトップ・ダウン方式の加工技術に限界が見えてきたことがある。タンパク質やDNA(デオキシリボ核酸)といったナノ・バイオ素材を活用すれば,「自己組織化」や同一パターンの「複製・増幅」といった,素材自身が備える特性を利用したボトム・アップ方式のデバイス形成が可能になる。

 ナノ・バイオ技術とエレクトロニクスの融合には,(1)「生体に学ぶ」手法と(2)「生体を学ぶ」手法の二通りがある−−。登壇者の一人である大阪大学 産業科学研究所の田畑 仁氏はこのように指摘する。(1)に相当するのは,自己組織化や複製・増幅といったナノ・バイオ素材の特性を電子デバイスの作製に利用する技術である。一方,(2)に相当するのは,ナノ・バイオ素材が構成する生体の機能を,電子デバイスを利用して解析する技術である。

FPD駆動向けトランジスタの作製にタンパク質を活用

 (1)に当たる手法として,奈良先端科学技術大学院大学と松下電器産業の共同グループは,FPD駆動向けTFT(thin film transistor)や不揮発性メモリーをタンパク質を使って作製する技術を提案した(Tech-On!関連記事3)。いずれも,金属微粒子を内包するタンパク質の溶液をガラスやSi製の基板上に塗布すると,金属微粒子が自己組織化によってほぼ一定の間隔で整列する性質を利用する。前者では,タンパク質を取り除いた金属微粒子をSi結晶の成長核として使い,後者では,Si酸化膜中に埋め込んだ金属微粒子を電荷蓄積層として使う。

 (2)に当たる手法を提案したのが,早稲田大学のグループである。同グループは,高周波デバイスへの応用が期待されているダイヤモンドを素材とするFETを作製し,これをDNA検出用のバイオ・センサーとして使うことを提案している(Tech-On!関連記事4)。FETのゲート部にDNAの鎖を付着させておき,検査対象のDNA鎖がそれと適合する塩基配列を持つ場合に両者が結合する現象を利用する。結合による電荷量の変化をFETのしきい電圧の変化として検出する。ダイヤモンドを使うと,Siを使う既存のDNAセンサーに比べてゲート絶縁膜を薄くでき,検出感度を高められるという。