左から,日興アントファクトリー ベンチャー・キャピタル投資グループ オフィサーの草場勇一氏,ザインエレクトロニクス 代表取締役の飯塚哲哉氏,チップワンストップ 代表取締役社長の高乗正行氏,同 ベンチャー投資チーム チームリーダーの本村天氏。
左から,日興アントファクトリー ベンチャー・キャピタル投資グループ オフィサーの草場勇一氏,ザインエレクトロニクス 代表取締役の飯塚哲哉氏,チップワンストップ 代表取締役社長の高乗正行氏,同 ベンチャー投資チーム チームリーダーの本村天氏。
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 エレクトロニクス業界に特化したベンチャー企業向け投資ファンド「イノーヴァ」が,2006年2月下旬に活動を開始した(Tech-On!関連記事)。大手エレクトロニクス・メーカーなどに所属する優秀なエンジニアが起業で成功する事例を増やして,国内のエレクトロニクス業界の活性化を目指す。イノーヴァ設立に至った思いを,設立の中心になったザインエレクトロニクスの飯塚哲哉氏,チップワンストップの高乗正行氏,日興アントファクトリーの草場勇一氏に聞いた。

——なぜイノーヴァを設立したのですか
 日本では,エレクトロニクス関連のベンチャー企業を取り巻く環境があまりにも貧弱だからです。このままでは日本が危うい。競争原理が変わる際には,新しい企業が出現して活躍するのがあるべき姿だと思います。しかし日本では,これまで奇跡的に大手企業だけで競争原理の変化を乗り越えてきてしまった。

 その結果,1990年代から日本ばかり負け続いています。アジアの国々にも負けてしまった。万が一,日本に働く場所がなくなれば,家族と別れて海外で働くなど,人の生き方にも影響を及ぼしかねない。そうならないためにも,イノーヴァでエレクトロニクス分野の有望なベンチャー企業を育てて,挽回したいのです。

 ベンチャー企業が育てば,大手企業も恩恵を受けことができます。ベンチャー企業の技術を利用できるからです。そこを誤解している人が多い。ベンチャー企業 対 大手企業の構図ではないのです。ベンチャー企業を利用することで,大手企業は過度の投資をすることなく,必要な技術を手に入れることができます。イノーヴァが支援したベンチャー企業が大手企業と共に成功を収めることを通じて,日本のエレクトロニクス業界全体を活性化させたい。

——エレクトロニクス関連のベンチャー企業への投資が不十分だったのはなぜですか
 エレクトロニクス分野は,投資会社が手を出したがらない分野の一つです。IT系やサービス業に比べて,成長が遅いと考えられているからです。しかし,その認識は間違っています。的確な支援をすれば,成長を加速したり,より大きくできるポテンシャルを秘めているのです。イノーヴァは,エレクトロニクス業界に身を置く我々が目利きをし,経験や人脈を生かした支援ができるのが最大の強みです。

 例えばザインエレクトロニクスは,創業から9年で株式を公開しました。もしイノーヴァのような組織が,資金と優秀な人材を我々に提供してくれていたら,もっと早く成長できたでしょう。創業した後の7年間は,韓国のエレクトロニクス・メーカーの下請けをして実績を積んでいました。7年という時間の間に,その韓国メーカーはどんどん成長して世界を代表するエレクトロニクス・メーカーになっていきました。

——具体的にどのような支援を受けられるのでしょうか
 立ち上げ期,成長期,拡大期のそれぞれの状況に応じて事業支援を行います。例えば,立ち上げ期は研究開発資金の提供や経営の中枢を担う人材の供給,成長期には多額の資金や技術者の供給,拡大期には資本提携先の紹介といった具合です。加えて,すべての期間でイノーヴァの中核メンバーによる経営支援を実施します。普段はなかなか会えない人にも,我々の人脈を生かせば会うことができるでしょう。その分,時間を短縮できるのです。

——投資先はどのように決めるのでしょうか
 技術やビジネス・モデルの優位性,経営者のビジョン,成長性,市場規模などで判断します。最も大事なのは「魂」と「ネタ」です。マネーゲームではなく,社会に貢献して利益を上げようとする企業を支援したいと考えています。大手企業から独立するスピンアウトのほか,事業部単位のカーブアウト,既存のベンチャー企業なども対象とします。

 現在,35社程度をリストアップして,検討している段階です。最も早いケースで,3年~4年程度で株式公開までたどりつけるでしょう。最初のファンド総額は32億円ですが,必要であれば会員会社が別の枠組みで資金を提供することもあるかもしれません。