ロシアのアキハバラ,ガルブーシュカ
ロシアのアキハバラ,ガルブーシュカ
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新興のテレビ販売店では,もうブラウン管テレビは扱っていない
新興のテレビ販売店では,もうブラウン管テレビは扱っていない
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 今や電気街の代名詞として世界的に有名な秋葉原。日本から遠く約1万kmも離れたモスクワにも,「アキハバラ」がある。通称は「GORBUSHKA(ガルブーシュカ)」だ。

 ガルブーシュカは,モスクワ市内中心部から車で20分ぐらい走ったところにある。初めてここを訪れた人でも,それを見逃すことはないだろう。ガルブーシュカに近づくと,突如として人の流れができ,電気製品の巨大な広告を壁にたくさん貼り付けられた古めかしい建物が,姿を現すからだ。

 ガルブーシュカでは,複数の建物の中に,2000店以上の電機関連製品の販売店が軒を並べる。品揃えは,音楽CDやDVDといったソフトウエアからハードウエアまで非常に豊富。売り場は,中古品なども販売する小規模店が軒を連ねる雑多な感のあるエリアと,メーカー直営店などが並ぶおしゃれなエリアの2つに分かれる。訪問者は1ヵ月に150万~200万人。電気製品の販売面積では,おそらく欧州一の規模だという。

 デジタル家電の場合,品揃えは秋葉原と比べればもちろん劣る。しかし,HDD録画機以外は,ほとんどのものが手に入る。例えば,おしゃれなエリアにあるテレビ販売店では,もうブラウン管は扱っていない。陳列されているのは,すべて液晶テレビかプラズマ・テレビだ。

 「どの画面サイズがよく売れるか」。こう店員に聞くと,「20型クラスから40型クラスまでまんべんなく売れるよ」との返事。ちなみに最近人気のオランダPhilips Electronics社の32型液晶テレビは8万4400ルーブル(約33万円)。韓国Samsung Electronics社の32型液晶テレビは6万6500ルーブル(約27万円)。価格水準は日本と変わらない。むしろ,日本の方が安いぐらいだ。都市部の平均月収が700米ドルと言われているのに,まるでそれがうそのように購買意欲は活発だ。

 今でこそ,モスクワ市にとって不可欠な存在になったガルブーシュカだが,その歴史は意外に浅い。オープンしたのは2000年と,まだ5年前。以前はブラウン管テレビを製造するロシアRubin社の工場だった。

 しかし,同社は1990年代,旧ソ連邦崩壊とともに海外メーカーとの競争にさらされ,苦境に陥った。一方,当時,同工場の近くの公園では,非常に大きなレコードの闇市場が存在した。先進国の仲間入りを急ぐロシアでは,こうした闇市場の存在に頭を痛めていた。

 そこでRubin社は,モスクワ市と協議し,合法的な取引の場を作ろうと,工場でのテレビ生産を止め,闇市で取引をしていた販売店を工場跡地に入居させた。それがガルブーシュカの始まりだ。当時,販売店のオーナーの登録者数は300人。現在はそれが2000人に膨らみ,今後も売り場面積を拡大していくという。

 実は,ガルブーシュカには,「GORBUSHKIN DVOR(ガルブーシュカの庭)」という正式名称がある。ガルブーシュカというと,ロシア人はどうしても昔の闇市場を思い起こす。そのイメージを払拭するために,Rubin社が新しい名称を付けたのだと言う。

 ところが,残念ながら,記者が会ったロシア人は皆「ガルブーシュカ」「ガルブーシュカ」と呼んでいた。昔のイメージが払拭されたかどうかはともかく,ロシア人が愛する電気街になっていることは間違いないようだ。