2006年2月,米Apple Computer, Inc.が携帯型音楽プレーヤ「iPod nano」シリーズに容量1Gバイトのモデルを追加発売,同時に「iPod shuffle」シリーズの価格を引き下げた。

 この事態を密かに恐れているのが,キー・デバイスであるNAND型フラッシュ・メモリを製造するメーカーである。「価格引き下げと大容量化」をセットにした需要拡大路線に対して,Apple社からの黄色信号と受け取ったからだ。

一見順調に見えるが

 NAND型フラッシュ・メモリの価格トレンド(下図)を見れば,急激な価格下落で容量需要を喚起してきた“歴史”が手に取るように分かる。それはiPodシリーズでも同じだった。2005年2月にApple社がiPod shuffleシリーズ,512Mバイトと1Gバイトの2モデルを発売した。その後,NAND型フラッシュ・メモリの価格が下落し,同9月にはiPod nanoシリーズで2Gバイトと4Gバイト・モデルを発売した。搭載容量の拡大と出荷台数の伸びが重なって,NAND型フラッシュ・メモリの需要は飛躍的に伸びた。

 2006年もこの状態が続くことを前提にフラッシュ・メモリ・メーカーは事業計画を描いた。以前はハード・ディスク装置(HDD)内蔵型「iPod mini」がカバーしていた6Gバイトやそれ以上の大容量プレーヤの登場に,フラッシュ・メモリ・メーカーは期待していたはずだ。しかし,その期待は崩れてしまった。2006年2月に発売されたiPod nanoシリーズは1Gバイトと,容量を落としてしまったのだ。携帯型音楽プレーヤ市場で5割のシェアを握るApple社の行動は,「音楽プレーヤーは2Gバイトで十分」とのメッセージとしてメモリ・メーカーに伝わった。


図●NAND型フラッシュ・メモリの価格推移(2002年第1四半期~2005年第4四半期実績,2006年第1四半期予測)

iPodが初めての減産

 タイミングも悪かった。2006年第1四半期,Apple社はiPodシリーズの生産を落とした。これまで季節的に需要が落ちる時期でもiPodシリーズは増産を続けていたが,初めて減産したことになる。シェアが50%まで上がると,さすがに季節要因の影響が無視できなくなったためで,2006年第1四半期の生産調整は想定されたことだった。しかし,2006年に入り,当初の計画より減産幅が広げられた中でのiPod nano 1Gバイト・モデルの発売だった。加えて,2005年第4四半期にDRAM価格が下落していたことで,韓国DRAMメーカーが生産をDRAMからNAND型フラッシュ・メモリにシフトしたことが供給過剰に拍車をかけてしまった。その結果がグラフの右端に表れている。2006年第1四半期にNAND型フラッシュ・メモリの価格は全容量品目で下落モードに突入した。