【図1】Geナノドットの原子間力顕微鏡像。直径数十nmのドットが形成
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【図2】Si基板上に形成したGeナノドット。中央部に色が変化している部分にGeナノドットが形成されている
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【図3】質量分析計の試料基板にGeナノドットを形成したSi基板を載せたところ
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 産業技術総合研究所は,Ge(ゲルマニウム)ナノドットを試料基板に採用することにより,高分子量化合物を補助剤なしで試料を分解させずにイオン化して質量分析できる技術「ナノドットイオン化法」を開発,国際ナノテクノロジー総合展「nano tech2006」(2006年2月21日~23日,東京ビッグサイト)で発表した。たんぱく質などのバイオ関連物質や規制対象になっている臭素系有害物質を迅速かつ簡便に分析できる可能性が出てきた。

 たんぱく質や糖鎖などのバイオ分析や高分子材料の分析には,田中耕一氏らがノーベル化学賞を受賞した手法である「マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)」が活用されている。従来の測定法がレーザを直接試料に当ててイオン化していたため試料が分解してしまって正確な分析が難しかったのに対し,MALDI-MSでは補助剤によって分解せずにイオン化が可能になり正確な分析が可能になった。しかし,補助剤の調整に時間がかかり,補助剤由来の妨害ピークが分子量1000以下で出現するために,1000以下の分析は事実上難しかった。今回産総研が開発した「ナノドットイオン化法」は補助剤が必要なく,しかも試料が分解せずにイオン化するものである。

 Geナノドットは,単結晶Si(シリコン)基板上に分子線エピタキシー法によって作る。Si結晶とGe結晶の格子定数の違いから数十nmのドーム状のGe結晶が成長する(図1,2)。Geの蒸着量や基板温度によりドットの構造や分布を制御することが可能で,特にドットのピッチは重要なノウハウで公表できないと言う。このGeナノドット基板を試料基板に載せて(図3)試料を塗布して測定する。

「表面プラズモン効果」でイオン化?

 なぜ補助剤なしでイオン化できたのかまだ不明だが,Geドット表面に「表面プラズモン効果」が発現してイオン化を促進しているためではないか,と産総研では見ている。表面プラズモン効果とは,光と相互作用する振動モードのことで,Geドットが微細化しているために表面積が増し,効果が増幅されたのではないかという。産総研では今後メカニズムを解明する考えだ。

 産総研は展示会場では,ウシ血清アルブミンの酵素消化物に同法を適用し,マススペクトルデータを公表した(このニュース向けにはデータ提供は拒否された)。従来のMALDI-MS法では補助剤由来のピークが分子量1000以下で多く出現していたが,「ナノドットイオン化法」によるスペクトルでは1000以下で多くのペプチド断片から成るピークを検出できたことを示していた。これによりより正確なたんぱく質の同定が可能になるとしている。

 また産総研がニーズが高いと見ているのが,RoHs指令の規制物質に指定された臭素系難燃剤の同定である。臭素系難燃剤には臭素原子数が10個のものや8個のものがあるが,RoHs指令では代替材料がないとして臭素原子数10個の難燃剤は規制対象外になった。しかし,臭素原子数10個の難燃剤にも不純物として臭素原子数8個のものが混入している可能性があり,どの程度含有しているか測定する必要が出てきた。しかし,MALDI-MS法では臭素系難燃剤をイオン化できる適当な補助剤がなく分析できない。このためガスクロマトグラフで分離した後質量分析計で測定するという手法で分析するしかなく,結果が出るまで1週間以上もかかっていた。今回開発した「ナノドットイオン化法」を臭素系難燃剤に適応したところ,イオン化が可能で,マススペクトルで臭素化合物のピークパターンが得られた。しかも10分以内で測定できたことから有効な測定法になると見ている。