米Google社の日本法人で代表取締役社長を務める村上氏
米Google社の日本法人で代表取締役社長を務める村上氏
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 米国の調査会社Nielsen//NetRatings社が2006年1月に発表した調査結果によると,利用回数で計った米国における検索サービスのシェアは米Google社が46.3%。2位の米Yahoo!社を大きく引き離す。企業価値を計る尺度の1つである株式時価総額は1270億米ドル(約15兆円)とIT関連企業としてはMicrosoft社に次ぐ,業界2位の水準である。創業からわずか7年数カ月の間に急に成長を遂げたGoogle社はこれから何を目標に,どこに向かうのか。Google社の日本法人で代表取締役社長を務める村上憲郎氏に話を聞いた。(聞き手=日経エレクトロニクス 伊藤 大貴)



――設立から7年数カ月で,今や従業員数は5700名近くになると聞いています。Google社がここまで成長できた要因はどこにあるのでしょうか。

村上氏 理由はいろいろですが,あえて挙げるとすれば2つあります。1つは会社の軸足がぶれないことです。我々は「世界中の情報を整理して,誰でも簡単にアクセスできるようにしよう」という明確な目標を掲げています。この1点にとにかく集中している。この軸足といいますか,社是が揺らがないところに我々の成長の要因があるわけです。

 軸足がぶれないのは技術があるからこそです。これが我々の成長を支える第2の要因と言えます。例えば,よく知られている「PageRank」が我々の検索技術のコアの1つです。そして,元々技術者が始めた会社ということもありますが,今ある技術に安住しない。技術が根幹の会社であることを日々,お互いに言い聞かせながら開発を進めています。ですから,採用活動においても,とにかく優秀な人材ばかりを集めています。同水準の技術者が集まれば,お互いに刺激し合ってさらに良いものを開発するのです。

――ここ数年で急激に従業員数が増えています。企業文化を保つために何か工夫はありますか。

村上氏  我々の企業文化,これを一言で表すと「あっけらかんとした明るさ」ということになります。おっしゃる通り,従業員が増えるとどうしても,こうした企業文化が薄まっていく恐れがある。多くの企業が経験していまるはずです。そこで我々は採用活動に当たって,徹底的に技術者を理解しようとします。要は楽しく仕事をしたい,この1点に尽きるのです。優秀なだけでは採用の理由にはならない。我々の企業文化に適応できるかどうかを見極めるようにしています。

――Google社は採用にとても時間を掛けると聞いています。どういった形で面接は進むのでしょうか。

村上氏 基本的には一緒に仕事をすると思われる技術者がまず面接します。もちろん,最終的には米国での面接を受けてもらうことになります。日本と米国で面接がありますから数カ月を要してしまうこともある。面接の最後では面接官自身が冷静になってこう考えます。「今,この技術者と成田空港にいる。何らかのトラブルが発生して空港に缶詰になってしまった。これから丸一日,この技術者と二人っきりで空港で待機しないといけない状況になった。さて,この状況下において,この技術者と楽しく過ごせるか」。

 一緒に仕事をして楽しいかということを常に念頭に置いて面接しますから,面接に携わった技術者のうち誰か1人でも厳しい点数を与えた場合,採用に至るのは難しいと思います。

――Google EarthやPicassaなどユニークな製品が多い。なぜ,こういったソフトウエアを無料で提供するのですか。

村上氏 まず我々の基本的な方針を理解して頂きたいと思います。それは,一般消費者向けのサービスは無償で提供するという考え方です。その代わり,広告収入でしっかりとお金が入ってくる仕組みを整えています。常にこの考え方を堅持している。

 なぜかというと,一般消費者に課金しようとすると,どうしても本来のあるべきサービスの形を実現できなくなるからです。どうやったらお金を儲けられるか,ということを考えがちになってしまう。そうではなくて,どのようなサービスだったら一般消費者が使いたいと思うか,それだけを考えることを社内で周知徹底させています。ですからPicassaにしてもGoogle Earthにしても課金しない。一般消費者にウケるサービスを提供していれば,何らかの形で広告が付くだろうと考えています。

――Picassaはどのように広告に結び付くのでしょうか。

村上氏 それは現時点では分かりません。もしかしたら広告と結び付かないかもしれない。それはそれまでのサービスということです。無理に課金するモデルにはしません。営業の人に頑張ってもらって,他の広告収入で支えればいいだけのことです。

――Google社の売り上げは広告収入に依存しすぎているという指摘もありますが,その点はどう考えていますか。

村上氏 その指摘は適切ではないと考えています。まだまだインターネット広告の市場はパイが小さい。日本の広告市場はここ数年,約6兆円で推移しています。このうち,昨年度の場合,インターネット広告が占める割合は約3%の1800億円です。我々が得意とするリスティング広告は,この1800億円の市場のうちの一部にすぎない。広告市場全体から見れば,まだまだ小さい市場の一部を獲得しているだけです。しかもインターネット広告市場は伸びている。開拓の余地はいっぱいあると考えています。

――今後の検索エンジンはどのように変化していくのでしょうか。

村上氏 大きな流れとしてはパーソナライズでしょう。「あなたは今までこんなキーワードを検索してきましたよ。それで,この検索キーワードの場合,こういうWWWサイトをクリックする傾向がありますよ」といった具合に,ユーザーが本当にほしい情報は何かを分析して表示できるようにしたい。もちろん,これは個人の履歴を我々に分析させてもらえれば,の話ですが。ほしい情報を簡単に見つけられる――それが今後検索エンジンが目指す姿でしょう。

日経エレクトロニクスの最新号(2006年2月13日号)では,Googleをはじめとする検索技術の最新動向を掲載しています。