図1 芳香族系炭化水素を用いた電解質膜。厚さは40μm〜50μm
図1 芳香族系炭化水素を用いた電解質膜。厚さは40μm〜50μm
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 JSRは,ホンダの燃料電池車「FCX」の電解質膜に自社製の炭化水素系電解膜が採用されていると発表した(関連記事)。本田技術研究所と共同研究により,−20℃~+95℃の温度範囲で発電を可能とした。従来のフッ素系電解質膜は0℃~+80℃でしか発電できなった。

 開発した電解質膜は,芳香族系の高分子を利用している(図1)。「多相構造」と呼ぶ3次元構造により,スルホン基(SO3)の濃度を高めてプロトン伝導度を高めながら,繊維状の高分子でスルホン基を取り囲んで耐熱性と強度を高めた(図2)。

 プロトン伝導度については,氷点下でも+80℃以上でもフッ素系電解質膜よりも高く,特に+80℃を超える領域では,フッ素系電解質膜に比べて1.5倍ほど高いとしている(図3)。

 このほか,自動車用途で主流であるフッ素系電解質膜に比べて水素のガス透過量を1/4~1/5に抑えている。熱に対する安定性については,フッ素系電解質膜が+100℃を超えると急激に弾性率が低下するのに対し,この新しい電解質膜は+150℃を超えてもほとんど弾性率が変化しないという(図4)。

 強度については,フッ素系がゴムのような応力−歪み曲線を示すのに対し,JSRの電解質膜は,樹脂のような挙動を示すため,耐久性に優れるとしている(図5)。

 同社では自動車向けの電解質膜以外にも携帯機器用にダイレクト・メタノール型燃料電池(DMFC)向けの電解質膜も開発済みで,数社の燃料電池メーカーに提供していることを明らかにした。既に工業化に近いレベルの試作設備を筑波研究所内に設立しており,ここ数年間の燃料電池メーカーへの供給については対応可能としている。

図2 多相構造のモデル。黒い部分がプロトン伝導を担い,白い部分が繊維状の高分子
図2 多相構造のモデル。黒い部分がプロトン伝導を担い,白い部分が繊維状の高分子
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図3 高温時のプロトン伝導度が高い
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図4 高温時でも弾性率が変化しない
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図5 樹脂のような特性を備える
図5 樹脂のような特性を備える
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