次世代無線LAN「IEEE802.11n(以下11n)」の標準策定を進めていたIEEE802.11委員会のTGn部会は,2006年1月15日から米ハワイで開催中の会合で投票を行い,伝送方式のドラフト案を賛成多数で可決した。これにより,長らく議論を続けていた11nの基本となる伝送方式がほぼ固まった。早ければ2006年内にも「11n」準拠をうたうチップセットが登場するとみられており,いよいよ11n関連ビジネスが本格的にスタートする段階に入った。

 具体的には,同部会内部でとりまとめた統合提案に対する承認投票を行い,賛成が184票,反対が0票と,100%の賛成を得た。なお棄権は4票だった。「100%の賛成なんて,IEEE802のミーティングではなかなか出ないこと」(ある会合参加者)。11nの標準化に関しては,当初「TGnSYNC」や「WWiSE」といった業界団体を中心に方式論争が進んでいたほか,昨年10月には業界団体「EWC(Enhanced Wireless Consortium)」が立ち上がるなど,内部での勢力争いが熾烈を極めていた。今回の統合案は,このEWCを中心とするグループとEWCに属さない企業が,元の統合案をベースに調整して作成したもの。統合案策定グループは,今回のハワイ会合に先立ってミーティングを開催し,内部では賛成多数で承認を取っていた。こうしたこともあり,今回のIEEEミーティングでの満場一致の賛成につながった。

 今後はこの案をもとに,仕様案の策定作業に入る。最終的に方式がまとまるまでにはあと1年程度かかるとみられるが,「既に半導体メーカーはチップ開発を始めている。11nのドラフト準拠をうたうチップは,もっと早い段階で出てきそうだ」(ある半導体メーカーの技術者)といった声が少なくない。ただし,今後の議論の中で,技術的な面での意見対立が再燃する可能性も指摘されている。「今回はとりあえずまとめてしまった感じ。技術的な差異を抱えながらの一致点だった。細かい点は後で議論することになっているが,その点で多少不安もある」(ある通信事業者の技術者)。

 11n統合案策定の中では,様々な業界からの参加企業の意見を反映したこともあり,仕様には各種のオプションが付くことになった。例えば携帯機器での利用に向け,アンテナ素子数を1にとどめたモードや,低消費電力モードなどが盛り込まれた。「今後は11nを使う中で,どのモードを使うのかについてわかりやすく消費者に説明できるようにしなければならないだろう。例えばWi-Fiのロゴに11nのプロファイルを明記するといった工夫が必要になるかもしれない」(ある会合参加者)。既にWi-Fi Allianceの内部に,11nの相互接続性確保に向けた作業部会が立ち上がっているなど,市場への導入に向けた動きも始まっているようだ。