「サービス化するソフトウエア」が広がり始めている。携帯電話機,デジタル家電,カー・ナビゲーション・システム,そしてパソコン。これらネットワーク接続機能と情報処理機能を備えた機器が普及し,当たり前に使えるようになっている。こうしたネットワーク接続可能な情報機器の特徴は,ネットワークと情報処理機能を活用した,従来とは異なるサービスが提供可能であることだ。例えば「iPod」と「iTunes Music Store」の組み合わせである。

 今後もネットワークを前提としたサービスは続々と登場する。Blu-ray DiscプレーヤはJava技術を取り入れており,ネットワーク・サービスと組み合わせることを前提としたコンテンツを作成可能である(Tech-On! 関連記事1)。「デジタル家電は今後,Webサービス型になる」と語る開発者もいる(関連記事2関連記事3)。明らかに,従来の機器内に閉じた組み込みソフトウエアの世界とは異なる発想によるサービスが登場しつつあるのだ。

 今回は,そうしたサービス化するソフトウエアの好例といえる「jigブラウザ」の開発者であるjig.jpの福野泰介氏による寄稿記事をお届けする。ちなみに,著者はまだ27歳と若い。

 jigブラウザは携帯電話機でパソコン向けWebサイトを閲覧できる「フルブラウザ」の一種であり,携帯電話機向けJavaアプリケーション(NTTドコモの場合は「iアプリ」)とサーバ側ソフトウエアの組み合わせにより構成する。月額630円と,他のiアプリに比べて高額であるにもかかわらず,同社によれば約3万人の有料利用者(2006年1月)が利用する実績をあげている。

 編集者として福野氏と対話をし,寄稿記事の編集作業を進める過程で感じたことが,前述したサービス化するソフトウエアという大きな流れである。中でも印象的だったのは「今後は,小さなアイデア,小さな仕掛けによる,小さな革新がたくさん登場するだろう」という言葉である。

 jigブラウザ自体が「小さな仕掛け」をいくつも組み合わせた「小さな革新」の好例である。しかも,革新は継続的だ。電子メールで寄せられるユーザーの要望に対応し,毎週1回以上というハイ・ペースでバージョンアップを繰り返している。ユーザー側の要望の取り入れに関して,通常の機器開発とは次元が違うスピードを達成しているのである。

 「小さな革新」と変化のスピードを可能にしたのは,ネットワークとJava技術だ。定額制で「使い放題」のネットワークと,サンドボックス型のセキュリティ・モデルを備えるJava技術を組み合わせることで,機器組み込みソフトウエアに比べてはるかに低い敷居で,小刻みに機能を追加していくことが可能となった。

 継続的な開発とサービスの提供が可能なのは,同社が「Webサービス企業」的な考え方に基づいて開発チームを運営しているからでもある。受託開発や製品開発の片手間では,継続的なサービス提供は難しい。

 「サービス化されたソフトウエア」は,おそらくは様々な分野に広がり,様々な「小さな革新」が起きるだろう。読者の皆さんには,今回の寄稿を基に,どのような革新が可能となるのかに関して想像をめぐらせていただければ,と思っている。