2005年12月2日,日本IBMは新たな取り組みの開始を宣言した。同社の女性技術者による,女性技術者の育成を目的とした全社横断的なコミュニティー「COSMOS(コスモス)」の発足である(Tech-On!の関連記事)。活動の内容は,コミュニティーのメンバーが自ら,女性技術者の育成に伴う課題を把握・分析・検討し,経営者に提言するというもの。

 同社はこれまでも積極的に女性の活用を進めてきた。2005年には,女性技術者の育成を経営課題の一つとして掲げていたほどである。例えば,米IBM社の全世界的な方針や活動に日本における取り組みやデータなどを加えた文書 「IBMコーポレート・レスポンシビリティー・レポート2005」(リンク先はPDF形式のファイル)にも,多様な人材の活用を支える制度として「意識した女性技術者の育成」が挙げられている。企業としての競争力を高めるにも,必須の取り組みという認識だ。

政府も持つ危機意識

 民間だけでなく政府も,同様の認識を持っている。内閣府男女共同参画局は,女子高校生・女子大学生向けに理工系分野の職業を紹介するWebサイト「Challenge Campaign」を,2005年5月に開設した(図1)。同局は就職や進学に関する合同説明会の場に参加して重要性を説くなど,学生やその家族,教職員の“啓蒙”に余念がない。


図1●Webサイト「Challenge Campaign」
内閣府男女共同参画局が2005年5月に開設した。企業で働く女性技術者のインタビューなどが多数掲載されている。(画像をクリックすると別ウインドーで拡大表示します)

 男女共同参画局が,対象を技術者や研究者に絞った施策に取り組んでいるのは,数ある職業の中でも「特に女性の進出が遅れている」(同局推進課推進係長の芝崎文子氏)からだ。

 同氏によれば,女性の社会進出を支援する施策の在り方は「三つのチャレンジ」という形で分類できるという。第一に,政策決定などに携わるような人材を育成する「上へのチャレンジ」。第二に,社会進出が特に遅れている分野を支援する「横へのチャレンジ」。第三に,結婚や出産などによって仕事から離れた人を支援する「再チャレンジ」。これら三つのうち,Challenge Campaignは二番目の「横へのチャレンジ」にあたる。言い換えれば,技術者や研究者といった職業は「横へのチャレンジ」による支援が必要と見なされるほど遅れている分野ともいえよう。

 実際,他国に比べて理工系分野で女性進出はかなり立ち遅れている。男女共同参画局がまとめた『男女共同参画白書 平成17年版』によれば,日本の研究者(技術者,大学教授など)に占める女性の割合は11.6%と,多くの先進国に比べてかなり低い(図2)。


図2●研究者に占める女性割合の国際比較
『男女共同参画白書 平成17年版』から引用した。(画像をクリックすると別ウインドーで拡大表示します)

 こうした傾向は,特に企業の研究開発現場で顕著に見られる。男女別に研究者の所属機関を調べたところ,男性研究者は63.3%が「企業等」に所属しているのに対し,女性研究者だと33.9%でしかない(図3)。一方,男性研究者では30.8%にとどまる「大学等」が,女性研究者では60.3%に達している。ただでさえ数が限られる女性研究者だが,企業ではその数はもっと少ない。


図3●研究者の所属機関
『男女共同参画白書 平成17年版』から引用した。データの原典は,総務省「平成16年科学技術研究調査報告」。(画像をクリックすると別ウインドーで拡大表示します)

 男女共同参画局では,理工系分野での女性の社会進出を促進するにあたり,最終的な男女比率などに関する数値目標を定めているわけではない。しかし,女性の比率が極端に低い状況は,国や企業の競争力という点でも望ましくないと考えている。

女性活用は合理的な戦略