図1 出力保護(EPN)への変更を提案
図1 出力保護(EPN)への変更を提案
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 電子情報技術産業協会(JEITA)は2006年1月11日に記者説明会を開催し,地上デジタル放送の「コピー・ワンス」の運用ルールを見直そうとするJEITAの提案内容について説明した。放送波に多重するコピー制御信号を「1世代のみコピー可(copy one generation)」とする現行の運用を,「出力保護付きでコピー制限なし」(通称:EPN(encryption plus non-assertion))に切り替えようというもの(図1)で,2005年11月8日にJEITAのコンテンツ保護検討委員会が放送事業者(実際にはRMP協議会準備会)に対して提案していた(Tech-On!の関連記事1)。JEITAは同年12月22日に開催された情報通信審議会 情報通信政策部会の「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」(第19回)で提案を公表している(Tech-On!の関連記事2)。

「コピー・フリーではない」と強調

 JEITAは「良質なコンテンツを確保するためには,適切なコンテンツ保護が必要」(コンテンツ保護検討委員会で委員長を務める日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ コミュニケーション・法務部 部長の田胡修一氏)と説明し,「コピー・フリー」ではないことを強調した。EPNの考え方では蓄積や伝送の際には暗号化などの保護を施すため,機器のユーザーが暗号化されていないデータを取り出すことは事実上不可能に近い(図2)。

 ユーザーにとっては,アナログ放送で実現できていたことをすべてデジタル放送でも実現できることが理想といえるが,「著作権保護のことを考えると,やはりアナログ時代とまったく同じにはできない」(田胡氏)。「CPRMなどの著作権保護技術に対応する記録媒体を使うことが必須になるEPNであっても,ユーザーに制約を与えることになる」(コンテンツ保護検討委員会 技術検討WGで主査を務める東芝 デジタルメディアネットワーク社 コアテクノロジーセンター AV技術開発部 参事の野中康行氏)と,ユーザーの利便性だけを強調しているわけではないと主張した。

現行製品のEPN対応はメーカーで異なる

 現行の録画機がEPNに対応できるかという点については,機器メーカーによって異なるとした。「EPNは地上デジタル放送の運用規定(ARIB TR-B14)の中で実現できる。運用規定に沿ってどのように実装しているかをJEITAとして統一しているわけではない」(田胡氏)。

 JEITAが提案するEPNを実現する際には,コピー制御情報の「コンテント利用記述子」の1つである「encryption_mode」と呼ばれる1ビットの値を変更する。TR-B14には,このencryption_modeに対応していない録画機では「実際の動作が「1世代のみコピー可」の扱いでデジタル記録することができる」との記述がある。現行のコピー・ワンス運用のみに対応することを狙ってencryption_modeに対応させなかった機器では,放送波がEPNに変わっても現行の運用ルールと同様にコピー・ワンスの扱いとなる。こうした機器をEPN対応とするためには「ソフトウエアのアップデートを実施するといったやり方があろう」(田胡氏)。

両者の主張を擦り合わせていく

 今回の内容は,もともと2005年12月16日に報道関係者に説明する予定だった。しかし,その後開催される検討委員会で正式に提案することから,説明会の開催を延期していた。12月22日の検討委員会では放送事業者が,暗号化を施すとはいえ数の制限なしに複製できることが問題であるといった意見を示しており,機器メーカーと放送事業者の意見は対立している。この議論が決着する時期の見通しは立っていない。コンテンツ保護検討委員会 委員長の田胡氏は「しばらくの間は(JEITAのコンテンツ保護検討委員会と放送事業者のRMP協議会準備会による)合同検討会で互いの意見を交わしながら議論を進めることになる。地上デジタル放送の著作権保護の最適なあり方を合同検討会や情報通信審議会の検討委員会で考えていく」と今後の見通しを示した。

※「日経エレクトロニクス」は2006年1月16日号で,JEITAの提案内容や情報通信審議会の検討委員会における議論の詳細をまとめた,「地上デジタル放送 『コピー・ワンス』をめぐる攻防」と題した記事を掲載します。

図2 JEITAの提案の概要。出力や蓄積で暗号化などの保護を施すが,コピーの回数や世代には制限を設けない
図2 JEITAの提案の概要。出力や蓄積で暗号化などの保護を施すが,コピーの回数や世代には制限を設けない
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