米UIEvolution Inc. CEOの中島聡氏
米UIEvolution Inc. CEOの中島聡氏
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米UIEvolution Inc.は組み込み機器にユーザー・インタフェースを提供するためのクライアント・サーバー型ソフトを開発しているベンチャー企業。創業者の中島聡氏は設立すぐのマイクロソフト日本法人に入社し,その後,米本社に移ってWindowsやIntenet Explorerの開発で中心メンバーとして働いた人物。ネットワーク家電の今後について聞いた。(聞き手=山田 剛良)

──今後のデジタル家電はインターネットへの常時接続が当たり前になっていくと思います。何が起こりますか?

中島氏 今後のデジタル家電はサービスと一体になっていくと思っています。現在のデジタル家電はすべての機能が最初から盛り込まれた完成品ですが,将来は後で新しい機能が加わったり,ガラッと変わったり,ユーザーの好みに応じて自動的にカスタマイズされるといったサービス提供が当たり前になる。そのときのデジタル家電は,購入時の機能だけではなく,購入後のサービス内容も含めてユーザーに評価される。

GoogleやAmazonでは当たり前

 GoogleやAmazon.comがやっているようなWebサービスの世界ではこうしたことが既に当たり前です。例えばGoogleは,新しいサービスをどんどん追加していますが,それを使うために,ユーザーが使うパソコンのソフトをアップデートする必要はないですよね? なぜならサービスの追加で必要になる処理の大半をサーバ側でやっているからです。これと同じような考え方でやれば,家庭に置く機器を買い替えなくても機能を強化できるようになるはずです。

──これまでとは考え方が違いすぎて作る側は大変になりそうですが。

中島氏 Webサービス型の家電には開発側にもメリットがあります。ユーザーの反応をダイレクトに受けて,開発にフィードバックできることです。Webサービスの開発では,新しいデザインや機能を追加して,クリック数などでユーザーの反応を見て,すぐ改良して…といった風に短いサイクルで,画面のデザインやサービス自体をどんどん改良していきます。こうしたやり方が家電のソフト開発に応用できれば素晴らしいと思いませんか。

 例えば,今のDVDレコーダーなんて基本機能はどれも同じじゃないですか。皆さん苦労して差を出そうとしているけど,せっかく付けた新機能がユーザーに受け入れられるかどうか誰も分からない。どんな機能にするかは開発者が「きっとそうに違いない」と考えて決めているだけです。どうしても無駄な開発が多くなる。付加機能をサービス化すれば,ユーザーの反応を確かめながら作り込める。当初の機能を改良したりもできる。その方がより良い製品になるはずです。

iPodはWebサービス型のデジタル家電

──Webサービス型のデジタル家電はいつ頃,成功を収めると予想していますか。

中島氏 もう大成功していますよ。私の考えでは,米Apple Computer Inc.の「iPod」はまさにWebサービス型のデジタル家電だと思います。iPodは直接,インターネットにつながりませんが,Appleはパソコンで稼働する音楽管理ソフトの「iTunes」をアップデートすることで,iPodの機能を改良,強化しているじゃないですか。当初のiPodには「iTunes Music Store(iTMS)」は無かった。PodCastなんて機能も当初はありませんでしたよね?

 私の息子は最近,iPodをビデオ対応iPodに買い替えました。他のMP3プレーヤなんて目向きもしなかった。なぜだと思いますか? それは,iTunesに彼の膨大なライブラリがあるからです。曲のデータだけじゃなく,プレイリストやよく聞く曲のランキングなどは全部,iTunesに入っている。これをそのまま使おうと考えると,iPod以外選べなくなる。

 Webサービス型家電の本当の意味はここにあります。よいサービスを提供することで,ユーザーを離れがたくできるのです。自分向けにカスタマイズし,蓄積したデータがあると,ユーザーは次に別のメーカーの製品を選べなくなる。iTunesは自分のパソコンの中にデータをためていますが,今後はサーバ側にデータをためてくれるようなサービス付きの製品も出てくると思います。そうなれば,なおさら離れにくくなる。

 デジタル家電はコモディテイ化が急速すぎて儲からないと言われてますよね。それは完成品を売るという古いビジネス・モデルだからです。そうではなく,サービスで勝負するなら端末はむしろコモディティ化していた方が都合がいい。私はそんな時代がすぐにやってくると信じています。