「JEITA(電子情報技術産業協会)の提案は実質的なコピー・フリーだ。視聴者の実質的な利便性を求めたのが我々の提案だ」(委員会に参加した放送関係者の1人)---。2005年12月22日,情報通信審議会 情報通信政策部会の「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」(第19回)において,地上デジタル放送の「コピー・ワンス」の運用ルールに関する議論があった。JEITAが提案した新しい運用ルールに対して,放送業界が反対する姿勢を見せた。

議論は11月から

 JEITAの提案は,デジタル放送波に多重するコピー制御信号を,現行の「1世代のみコピー可」から「出力保護付きでコピー制限なし」に変更するというもの(Tech-On!の関連記事)。2005年11月8日に,JEITAのコンテンツ保護検討委員会が放送事業者(実際はRMP協議会準備会)に提案した。これに伴い,機器メーカーと放送事業者が「コンテンツ保護運用に関する合同検討会」を設置し,協議を進めてきた。

 12月22日の検討委員会では,JEITAと放送事業者がそれぞれの意見を公の場で説明した。JEITAは「現行の運用規定(ARIB TR-B14)の中で定義された運用ルールであり,コピー・フリーとは異なる。認められた暗号化を施すため,インターネットに送信したデータは視聴できない」と提案内容を説明した。

EPNではコンテンツの権利者が納得しない

 放送業界は,JEITAが提案するEPN(encryption plus non-assertion)の考え方では,テレビ番組の製作会社やハリウッドの理解を得られないと主張した。「地上デジタル放送への移行には,リッチなコンテンツをHDTV画質で届けることが欠かせない」とし,コンテンツの権利者が地上デジタル放送での放映を優先するためには「権利者がリッチなコンテンツを安心して提供できるように,視聴者が無意識に違法行為を行わないようにする。それと併せて,視聴者の利便性向上を図りたい」と説明した。インターネットへの送信を防ぐだけでは不十分であり,暗号化を施すとはいえ数の制限なしに複製を作成できることを問題視した。

 コンテンツを別の記録媒体に移動する,いわゆる「ムーブ」の失敗で番組が消失してしまうことや,HDTV画質で録画した番組をいったんSDTV画質にダウンコンバートしてムーブすると,HDTV画質では見られなくなってしまうといった問題については,放送業界は次のように説明した。「例えば,HDTV画質の録画ファイルとは別に,DVDやメモリ・カードにムーブできる録画ファイルの生成を許可するといった方法を採り得る。これは1例であり,最適な記録方法の検討を進めていきたい」。

 この検討委員会の主査である慶應義塾大学 環境情報学部 教授の村井純氏は「番組の著作権保護と,視聴者の利便性向上を両立させるという点で,JEITAの提案も放送業界の提案も相違はないようだ。視聴者や権利者の意向を聞いたり,海外の状況を踏まえるなどして議論を重ねていけば,適切な着地点がおのずから見えてくるのではないか」と締めくくった。