米Purdue Universityが開発した赤外線向け左手系メタマテリアル(写真:米Purdue University)
米Purdue Universityが開発した赤外線向け左手系メタマテリアル(写真:米Purdue University)
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 米国インディアナ州の大学Purdue Universityは,波長が1.5μmの赤外線の領域で屈折率が負になる人工的な媒質「左手系メタマテリアル(LHMs:left-handed metamaterials)」を世界で初めて開発した。同大学が投稿した論文「Negative index of refraction in optical metamaterials」が,光の制御技術に関するオンラインの学術論文誌「Optics Letters」に掲載された。この赤外線は,光通信で一般に使われている波長である。これまで光通信の制御技術として,Si細線導波路やフォトニック結晶が盛んに研究されてきたが,今回のLHMsの開発で,光を制御する新しい手段が登場したことになる。

 メタマテリアルとは,原子や分子の代わりに人工的な構成要素を結晶のように周期的に配置した作った媒質を指す。このうち特に,左手系メタマテリアルは,人工媒質を伝わる電磁波に対する有効的な誘電率(ε)と透磁率(μ)の値が共に負で,その結果屈折率も負となる材料のことである(Tech-On!の関連記事)。こうした媒質を利用すると,回折限界を超えた焦点精度が得られるなど「従来の常識ではあり得ない」性質を持った特殊なレンズが作れるほか,アンテナやフィルタなど,従来にない特性を持った各種のアナログ素子が開発可能になる。

 「左手系」という言葉の由来は,εμが共に負の場合に電磁波の電界Eの向きと磁界Hの向き,波面の進む向きKが,左手の親指,人差し指,中指の向きにそれぞれ対応するため。通常の電磁波を伝播させる物質はεμが共に正の値で,EHKの関係は「右手系」となる。

 メタマテリアルでは一般に,εμの値が伝播させる電磁波の波長に大きく依存する。この結果,左手系として機能するのは,ある特定の波長帯に限られる。左手系メタマテリアルの最初の発見は1999年。波長が数十cmと特定の波長のマイクロ波だけに左手系として反応するものだった。最近になって,より短い波長の電磁波に対するメタマテリアルの開発が進み,今回の赤外線でのLHMsの開発につながった。

構成要素は「光のLC共振回路」

今回のLHMsは,「ナノ・ロッド(nano rods)」と呼ぶ780nm×220nmの微小な金属片を基本的な構成要素として,SiO2の媒質に等間隔で埋め込んだもの(写真)。このナノロッドを詳しく見ると,上からTi(5nm)/Au(50nm)/Ti(5nm)/SiO2(50nm)/Ti(5nm)/Au(50nm)と,2つの金属片をSiO2の層をはさんで張り合わせた構造になっている。論文によればこの金属片のペアが「電磁波が通過する際に,金属片間で渦状の電流が発生し,それが電磁波の磁界と逆向きの磁界を生み出すことで,『光のLC共振器(optical LC-circuit)』として働く」という。その結果,赤外線に対するεμの値が共に負となる。屈折率は,およそ−0.3である。


 日経エレクトロニクス誌では2006年1月2日号で,この左手系メタマテリアルなど,新しく発見されたばかりの材料群を応用した各種の機能素子について詳説する記事「研究開発 物理に還る」を掲載予定です。