図1 放送番組のビデオ化とネット配信
図1 放送番組のビデオ化とネット配信
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 2005年11月21日,東京イイノホールで開催された「JASRAC シンポジウム 2005」で,文化庁著作権課長の甲野正道氏は「コンテンツ流通の現状と課題」と題した基調講演を行った。私見に基づくと断りつつ「テレビ番組のインターネット配信」と「IPマルチキャストと有線放送」を大きなテーマとして扱った。

放送番組のビデオ化とネット配信で制約に差はない

 前者の「テレビ番組とインターネット配信」に関しては,「何がコンテンツ流通を妨げているのか」というサブタイトルを付けた資料を用意した。この中では,まず「放送番組は,放送利用を前提に作られている」と指摘した。例えば,2001年度の民放全体の収入を例に挙げて,放送事業収入が93.9%を占めることを示した。少しでもこの放送事業収入を上げるため,視聴率競争が激しくなる。その結果「放送番組に二次利用を妨げる要因が入ってくる」と解説した。例えば,(1)(ネット送信を)許諾しないことで有名な海外アーチストのレコードをドラマのBGMで使用する,(2)ネット上にタレントの肖像を流すことを許諾しないプロダクションのタレントを起用する,などである。

 さらに,甲野課長は,「放送番組のビデオ化とネット配信で,著作権法上の制約は変わらないこと」などを指摘,「ビデオ化が進んでいるのはビジネスが成立しているから」だとした(図1)。「著作権法が足かせになっているわけではない」と言いたかったのではないだろうか。

放送番組のマルチキャストは有線放送?

 後者の「IPマルチキャストと有線放送」では,地上デジタル放送をIPマルチキャストで再送信した時の著作権法上の位置づけが大きな課題となっている(図2)。文化庁の従来解釈に基づくと,これは「自動公衆送信」となり,レコード製作者と実演家にとっては「有線放送」と権利が異なってくるという。例えばレコード製作者にとっては,レコードの曲を流す場合に「自動公衆送信」となると許諾権が発生し,コンテンツを流す側は権利者の了解が必要になる。ところが有線放送では,二次使用請求権のみとなり,コンテンツ配信者はその料金を支払いさえすればよい(図3)。

 実演家の権利は,さらに大きな差があるという。自動公衆送信だと許諾権が認められるが,有線放送では無権利と指摘した。その上で文化庁の対応として3つのシナリオを示した。(1)いまの解釈を維持,(2)まずは解釈変更,(3)放送と通信の融合に合わせた法令改正を行う,である。本来は法令改正を行うべきだと見られるが,「権利者や有線放送事業者など反対しそうな団体が多いこと」や「再送信する主体が決定しておらず,今後の技術推移を見極める必要がある」ことなどから時期尚早か,という考えも示した。さらに「例えば,放送番組を再送信する場合は,IPマルチキャストを有線放送として扱う」という現実な対応策の案なども示した。

 この基調講演では,文化庁の今後の取り組みとして2点を示した。(1)「世間の感覚」と「法律上の規範」の距離を狭める,(2)社会の進歩についていく,である。

図2 IPマルチキャストのイメージ
図2 IPマルチキャストのイメージ
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図3 解釈の違い
図3 解釈の違い
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